2010年05月20日

[特許]無償で発明を公開する背景

ソフトウエア技術を中心に、ユーザー側が発明を行い、しかもその発明を無償(ただし、オープンソースソフトウエア(OSS)のように無償ではあるが、その他の製薬条件が科されていることがある)で公開する動きは既に定着している。MITのvon Hippel教授の研究によると、オーストラリアでの図書館の蔵書検索システムやTechnicon Corporation社の血液分析機器においても、同様の現象があったことが紹介されている(注1)。

独占的利益を得ることとは対極的な行為にある、この無償で発明を公開する背景を考えてみたい。

■ユーザーによるイノベーションを無償公開する理由(von Hippelの分析による)
ユーザーにより達成されたイノベーション(またはインプルーブメント)の成果は、以下の理由から無償で公開されやすいことがvon Hippel教授らによって指摘されている。
・メーカーにそのイノベーションを採用させやすくする
・自らの環境に最適化したイノベーションを普及させることで有利な立場に立つ
・名声を得る
また、ユーザーにより達成されたイノベーションが細分化されたニーズを反映している場合、当該イノベーションの成果を公表してもユーザー側の競争力をそがない(注2)ということも無償公開の要因となる場合あるようだ。

また、同教授が行ったゲーム理論モデルによる分析からは、ユーザーが起こしたイノベーションについては、何らかの模倣から守ることは合理的な選択肢でないことも指摘されている(注3)。

■von Hippelの分析は日本でも妥当するか?
もっとも、同じことが日本で直ちに当てはまらないのではないか、と私は考える。

日米で特許制度の効果に対する認識が異なっており、発明を無償で公表しないことの効用への評価に差異があるのではないだろうか。

米国では、製薬・化学分野を除けば、古くから特許制度の効用はあまりないと捉えられている。たとえば、1987年に異なる業界の650人の研究開発担当幹部にアンケートを実施した調査結果によると、化学・製薬業界からの回答者以外の全員が特許を「比較的効果がない」と判断していたことが紹介されている(注4)。

また、1994年に実施された日米企業に対する質問表調査では、イノベーションにより生み出される利益を回収するために特許が有効であるとの回答が米国企業に比べ日本企業で多かったことが指摘されている(注5)。

このことから考えると、日本ではユーザー側が自らが起こしたイノベーションの成果を特許権によって保護し、それを材料としてメーカーに交渉を持ち込むことが起こりやすいのではないだろうか。

(注1)Dietmar Harhoff, Joachim Henkel and Eric von Hippel, "Profiting from Voluntary Information Spillovers: How Users Benefit by Freely Revealing Their Innovations." Research Policy 32 (2003):1757.
(注2)ここでのユーザーは例えば、製造機械のユーザーであると想定すると理解しやすい。
(注3)supra note 1:1768.
(注4)Richard Levin, Alvin Klevorick, Richard Nelson and Sidney Winter,"Appropriating the Returns from Industrial Research and Development." Brookings Papers on Economic Activity 3 (1987):783-832.(原文未入手。エリック=フォン=ヒッペル(著)・サイコムインターナショナル(訳)『民主化するイノベーションの時代 メーカー主導からの脱皮』(ファーストプレス、2006年)113頁(Eric von Hippel, Democratizing Innovation (Cambridge: The MIT Press, 2005), 84)からの孫引き。
(注5)Wesley M. Cohen, Akira Goto, Akiya Nagata, Richard R. Nelson and John P. Walsh, "R&D spillovers, patents and the incentives to innovate in Japan and the United States." Research Policy 31 (2002):1349-1367.
posted by かんぞう at 22:00| Comment(2) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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