2010年01月20日

[時事][著作権]権利制限を幅広く認める包括的フェアユース規定導入を諦めた(であろう)ことの意味

(2010年1月21日一部修正)


■日本版フェアユースの行方を報道から探る
非公開であった文化審議会著作権分科会法制問題小委員会 権利制限の一般規定ワーキングチームの報告内容が報道された。詳細は末廣さんのブログ『Copy & Copyright Diary』に詳しい(注1)が、報道を見る限り、かなり個々の行為の価値判断について言及されているようである。
「ITベンチャー企業によるテレビ番組の転送サービスなどは適用対象から外れる見通し」(NIKKEI NET 2010年1月19日記事「著作権侵害、対象外に 写真の端に写った絵画など、文化庁方針」)
「テレビ番組のロケで偶然に他人の絵画を撮ってしまう「写り込み」など、付随的な著作物の利用行為は認めるべきだとする意見が大勢だった。」
(朝日新聞2010年1月19日朝刊「「公正」なら許可は不要 著作物利用の緩和、範囲は限定的に」)
この報道の限りでは、包括的フェアユース規定にしたとしても、かなり要件を絞った上で詳細なガイドラインを提示する予定であるように思われる。あるいは、包括的フェアユース規定でなく、個々の権利制限規定の追加で対処するのかも…とも思えてしまう。いずれにせよ、具体的な報告書の公表を待ちたい。

■権利制限を幅広く認める包括的フェアユース規定導入を諦めた(であろう)ことの意味
さて、もし、要件を絞った規定であるとするならば、その意味はどのように考えられるだろうか。

私は、ワーキングチームの提言は、著作権の権利範囲の調整について、著作権法の所管官庁(現状では文部科学省文化庁)が相当程度のウエイトを担うことを提言していると読み取ることが出来るのではないかと考えている。

「1億総クリエーター」の中で利害関係者が極めて多数になっている問題の利益調整を、文化庁が引き続き担うことは、その担当の方たちにとっては必ずしも容易な仕事ではないものと推察する。とくに、著作権に関して文化庁の当事者であった方から、
社会全体に「権利者寄り」の意見を言いにくい雰囲気がある。
自由闊達、建設的な議論が出来ない。
との印象も指摘されている中である(注2)。利益調整の大きな負担を、文化庁が引き続き負い続けることをになる。見方を変えると、ワーキングチームの有識者は文化庁に厳しい提言を行った、と評価することも出来るのではないだろうか(注3)(注4)。そのような文化庁に厳しい提案を、文化庁側が受け入れるのか、気になるところである(もちろん、最終的な立法の権限は国会にあるのであり、ワーキングチームの結論を基に議員立法の形をとってもよいのだが)。

もっとも、「要件を絞った規定」となるのでなく、要件は限定的にせず、たとえば、ガイドラインに行政としての価値判断を記すやり方を選ぶのであれば、上記の私の見方は当てはまらない。というのも、訴訟においてガイドラインの内容が覆されることは十分にあり、利害調整の場は裁判所にシフトする余地が大きいからである。

■余談:期待したい個別の権利制限
ここは話が逸れるが、日本経済新聞の記事によると、
「本来の利用でない複製(言語分析のために小説を複写するなど)」
(日本経済新聞2010年1月19日朝刊)
も権利制限の対象としてワーキングチームでは評価されているようである。

膨大な量の著作物に基づき分析を行うことに意義がある情報学分野では長年念願としてきたことであり、そのような権利制限が確立すれば、言語分析学を中心とした学術的発展が期待される。また、さまざまな展開も想像できる。歓迎したい権利制限である。

(注1)『Copy & Copyright Diary』2010年1月19日記事「日本版フェアユースの範囲」。
(注2)甲野正道「デジタルコンテンツの流動化と知的財産権制度の課題」日本知財学会誌5巻3号(2009年)12頁。
(注3)伝統的には官公庁の審議会(およびその下部のワーキンググループ等)の提言は、そのメンバー選定や進行を通じて相当程度、当該所管官庁の意向を反映していると指摘されており(森田朗『会議の政治学』(慈学社出版、2006年))、今回のワーキングチームの提言も文化庁自身が著作権に関する利害調整から逃げないことの決意を表明したものである可能性がある。
(注4)最近、私は、包括的フェアユース規定は、著作権の権利範囲の利害調整の役割のウエイトを官庁(文化庁)から裁判所にややシフトさせるものと捉えている。包括的フェアユース規定により、官庁が些末な利害調整に追われず、政策的課題に人的資源を割くことが出来る点が、利点であると考えている。

※注:ここでは単に「フェアユース規定」と呼ばず「包括的フェアユース規定」と表現した。
posted by かんぞう at 22:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ★時事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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