2009年07月17日

[意匠]スペアパーツに対する意匠権の制限

今村哲也「スペアパーツの意匠保護に対する権利制限の可能性とその妥当性」〔RCLIP第28回研究会(2009年7月17日開催)〕聴講メモ
(2009年9月13日追記)


※本聴講メモは筆者の責任で作成したものであり、それに誤りが含まれている可能性があります。また、本メモは、講義を受けて筆者が感じたことをまとめることが主眼であることをどうぞご容赦ください。
※※佐藤恵太・毛利峰子「スペアパーツ意匠保護に関する除外条項の適否」〔日本工業所有権法学会 平成21年度研究会(2009年9月12日開催)〕の聴講で得た知見も、重なるところがあるため追記しました。なお、報告概要のうち、佐藤・毛利発表による知見を含む箇所は「*」印を付しています。

■報告概要
1.背景

・1998年頃、欧州で議論が持ち上がった。その10年前に、独立部品メーカーが相次いで自動車部品の意匠権を巡り敗れる事案が続いていた(なお、そのうち1件では、独立部品メーカー側は意匠権者である自動車会社の支配的地位の濫用を問題としたが、その主張は受け入れられなかった)(注1)。*
・欧州・米国でも自動車のスペアパーツに限らないが、主たる議論は自動車が対象。性格には、欧州では「複合製品の構成部品で外から見えるもの」が対象。
・意匠権者、独立系部品メーカー、損害保険事業者、消費者がステークホルダー。

2.動向
(1)世界全体の現状

・国により制度が異なり、マレーシアでは意匠法による保護を認めず、デンマーク、フィンランドでは保護期間を限定している。英国、イタリアは特定の権利行使を制限し、ギリシアは一定期間経過後に報償金スキームを採用している。
・ドイツ、フランスは修理条項を有していない。
(2)欧州の動向
・2007年12月欧州議会は、(紆余曲折を経て)部品市場の自由化を目的とする場合のみ構成部品の意匠権の制限を認める(ただし、修理製品の出所を消費者が十分に通知されることを求めている*)法改正を加盟国に許容する欧州意匠指令改正案を可決。現在、閣僚理事会で審議中。
(3)米国の動向
・1989年クライスラー社のトラックのフェンダーに係る意匠権を、機能的な形状であることを理由に意匠権による保護を連邦裁判所が否定。この直前にデザイン権法立法の動きがあったことから、スペアパーツを巡りロビイング団体が芽生え始めたと考えられる。
・2007年台湾から輸入したスペアパーツをFord社がITCに意匠特許権侵害に基づき提訴したことを契機に、利害関係人がロビイング。議員立法(H.R.5632)提出がなされた。
・知的財産権利者団体は特許取得のインセンティブを減少させること、特許と意匠特許で保護の程度が異なってしまうこと、を理由に反対を表明し、弁護士団体のAIPLA(米国知的財産権法協会)は立法の必要性が無いことを理由に反対を表明している。
・他方、独立系部品メーカーは、(i)消費者の利益、(ii)スペアパーツに関する意匠登録件数の劇的な増加(注2)、かつ意匠審査自体の質が低いことによる市場の破壊、の2点を主張し賛成の意見表明をしている。保険業界は、競争的な部品が存在することで大幅に部品価格が低下すると述べ、賛成の意見表明をしている。

3.TRIPs協定との関係
・TRIPs協定25条、26条に抵触するとの見解がACEA(欧州自動車工業会)や、Joseph Strauss(注3)から出されている(StraussはWTOでのジェネリック薬品に関する特許パネルの判断基準を用いている)が、抵触しないとする見解もJosef Drexl(注4)らから提示されている。なお、TRIPs25条、26条では意匠の保護について著作権類似の相対権での保護や不正競争行為禁止規定での保護を許容するものとなっている。
・今村講師はTRIPs協定における意匠の保護に対する加盟国の裁量の広さに鑑みて、TRIPs協定で他の産業財産権の制限に対してこれまで示されてきた基準は適用されない、と考えている。(すなわち、Straussの見解には反対)

4.今村講師の見解
・TRIPs協定との関係では疑義は乏しい(理由は上記)。
・欧州では、域内市場の自由化という理由があったために正当化する要因があった。このような要因の無い日本ではこのような規程は難しい。また、意匠法改正の審議会が権利者により構成されていることに鑑みるとそのような改正は政治過程としても困難である。

5.高林教授の見解
・構成部品に限定して権利を制限することは少なくとも日本の意匠法体系上難しい。

6.その他
・イギリスのMust Matchでは、自動車部品が登録できなかった。これが欧州指令により改正され、登録できるようになったことは利点(会場からの指摘)。なお、意匠法による保護を認めないマレーシアは法改正を予定。
・欧州では市場でのデザインの価値の保護が意匠法の目的と共通して捉えられだしているようである。

■私見
1.制度の目的の解釈について(欧州の場合)

「外から見えるもの」に限定されている点が興味深い。これは、欧州意匠規則上、複合部品に組み込まれる部品については、外から見えるものに保護が限定されているためであると、五味弁理士から指摘があり、大変参考になった。
他方そのような背景の無い、米国でも同様に扱われた法案が提出されたのかは不明である。欧州で「外観の回復」が議論の出発点にあるためだろうが、なぜ外観の回復が特別に扱いうるのかは合理的に説明できないだろう(おそらく、議員立法であるので、十分に検討していなかっただけだろう…)。
このような限定は差別的と考えられる余地がある。(ただし、差別的な取扱いがTRIPs協定25条、26条に反するかは今後の課題)。
理由はいずれにせよ外から見えるものに限定していることは、制度目的の解釈に当たって大きく影響するように思う。例えば、サードパーティによる部品流通の促進(ひいては消費者の利益)という政策的理由からは整合的な説明は出来ない。ならならば、部品は外観から見えるものに限られない(例えば、エンジン部品など)からである。

2.TRIPs25、26条との関係
TRIPsとの関係について、著作権パネルや特許パネルでの判断基準は参考となりえないとの今村講師の指摘は鋭いものがある。他方で、たとえば「権利者の正当な利益を害さない」という要件に関し、最初の販売での投資回収で正当な利益は保証されていると述べるDrexlらの見解には、「部品」としての意匠が取得されている以上、本体製品に付随した販売だけを市場として想定していると考えることは疑問である。(なお今村講師はDrexlの意見に賛同されるかは明示していないことには注意)。TRIPs26条にいう「意匠の権利者の正当な利益を害さない」の詳細な解釈が必要であろう。直感的には抵触していると考えられる余地が少なくないように思う。
なお、仮に「第三者の利益」との比較衡量が可能なのであれば抵触しないと読むことも比較的容易に出来るだろうが、そもそも、26条は第三者の利益がある場合に、権利者の利益を害さないことを条件として制限を許容している文言となっているために難しいように思われる。

■参考資料
社団法人日本国際知的財産保護協会『特許庁委託 平成20年度産業財産権制度各国比較調査研究等事業 各国における意匠保護の及ばない範囲の実態調査研究報告書』(2009年)

(注1)1988年に、独立部品メーカーが自動車部品の意匠権に関して裁判が2件登場。CICRA v. Renault[1988] E.C.R.6039では、意匠権で保護されたスペアパーツの保護が支配的地位の濫用にあたるとして、独立部品メーカーが提訴したが、敗訴した。Volvo v. Veng[1988] E.C.R.6211では、意匠権で保護された自動車部品を独立部品メーカーが無断で販売していたところ、意匠権者からは販売差止を求め、独立部品メーカーはライセンスを求めたが、独立部品メーカーが敗訴した。*
(注2)少なくとも日本の企業については中国での偽RV問題に対応するため、構成要素を各国で出願したために、出願が増加しただけであるとの重要な指摘が、会場の自動車業の知的財産担当者からなされた。
(注3)Joseph Strauss, "Design Protection for Spare Parts Gone in Europe?",27(11) European Intellectual Property Review (2005), pp.391-404
(注4)Josef Drexl, Reto M. Hilly, Anisette Kur, "Design Protection for Spare Parts and the Commission's Proposals for Repairs Caluse, 36 IIC (2005), pp.448-457, p.456
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2009年07月14日

[特許]ちょっと気になる事実関係

東京地判平成21年7月10日 平成20年(ワ)第12952号 判決を読んで

特許法解釈の上でも実務の上でも特段の意味のない判決であるのだが、その事実関係はおもしろかった。

■事実のきわめておおざっぱな概要
GPS通信を行うことで位置情報を特定し、周辺の特定の業務を行う者の電話番号(発信番号)を検索し通信を行う携帯通信端末について特許権を有する原告が、そのようなサービスを利用可能な携帯電話端末を製造した企業および販売した企業を相手取り、特許権侵害に基づく販売差し止めと損害賠償3,440万円を求めた事案である。
なお、原告はその主張の中で、位置情報に基づいて周辺の特定の業務を行う者の電話番号(発信番号)を検索し通信を行う構成は、第三者(NAVITIME)のサービスを通じて実現されることを主張している。

■きわめておおざっぱな判旨:請求棄却
特許請求の範囲を分析し、周辺の特定の業務を行う者の電話番号(発信番号)を検索することが、当該携帯通信端末のCPU上で行われていることが、特許請求の範囲に含まれる行為であるとした上で、NAVITIMEのサーバーを通じて電話番号を検索する被告の製品は構成要件を充足していないと判断した。

■判決へのコメント
当事者の主張は綿密に記述されているが、裁判所の判断は比較的あっさりした判決文になっている。出来る限り広範な特許請求の範囲を原告は抑えていると認識していたものと思われるが、その牙城を崩され、どうしようもなかった事例なのだろう。
なお、裁判所が要約した発明の構成要件は極めて簡潔に認定されており、このように認定されているのであれば、仮に被告製品が構成要件を充足していても進歩性が否定されていたようにも思われる。

■ビジネス面で警戒される原告かも…
この原告は、公式のウェブサイトを見る限りでは、開発専業企業(注1)で知的財産権ビジネスを主要な業務としており、「侵害は放置しない」との態度で臨んでいる。
業務の形態を見ると、パテントトロールと言われうる余地はあるし(注2)、一部の特許をオランダの知的財産権ビジネス企業を通じて取得していること、一部の特許で特許取得にあたって極めて多数の出願分割を繰り返すなどテクニカルな特許取得を行っていること、など、知的財産部門の人間であればおそらく警戒する要素が見てとれる。
このような訴訟にはついつい注目してしまう。

(注1)開発、というよりは、特許マップを細かく分析して抜け落ちている特許取得に特化した企業なのかもしれない。多くの発明が特定の個人による発明となっている。また、かつて「2画面型携帯電話」について特許取得をし、話題になったことがあるようだ。
(注2)定義が定まっていないことには留意が必要。
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2009年07月07日

[特許]特許制度の歴史をポンチ絵にしてみる(その1)

石井正『歴史のなかの特許 発明への報奨・所有権・賠償請求権』(晃洋書房、2009年)読書メモ(その1)

ヴェネチアの特許制度が欧州各国に影響していったことは有名だが、その影響の流れのうち、ヴェネチア→英国→米国の流れを石井先生の本に従ってポンチ絵にまとめてみた(注1)。

patent_system_history_venis

(注1)本来はいろいろな歴史研究本を読んで整理するべきなのだが、ここでは石井先生の本に丸乗りする。
posted by かんぞう at 00:44| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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