2009年06月25日

[特許][時事]坂田一郎「グリーン・イノベーション下の特許制度 学術研究との接近図れ」読書メモ

坂田一郎「グリーン・イノベーション下の特許制度 学術研究との接近図れ」日本経済新聞2009年6月24日記事(東京版29面)読書メモ

特許制度改革案のいくつかを補強する論稿が先日の日経に掲載されていた。

■論稿概要

太陽電池分野での学術論文の展開状況に着目すると、とくに太陽電池のセル技術に関しては、特許化が進んでいない分野での研究の積み重ねがあることがわかった。(少なくとも)環境技術においては、特許対象として有望な技術が大学・研究機関に多数存在するといえる。
しかし、大学の知的財産体制は必ずしも十分とはいえない。また、特許庁の審査においても産業界の技術論文が専ら参照され、学術論文を十分に参照していない場合があり、これが、事後に無効となる特許を生み出している原因となっている。
そこで、以下の3つの施策の推進が望まれる。
・学術・特許文献のシームレスな検索
・仮出願制度を設ける
・大学の特許出願を支援するドリームチーム編成

■私見
□提言の目新しさを見ると…

提案する3つの施策案のうち、「学術・特許文献のシームレスな検索」「大学の特許出願を支援するドリームチーム編成」の2つはそれぞれ特許庁で取り組みが始まっているが、その施策の妥当性を、太陽電池分野の技術情報の分析結果から補強している点で意義深い(注1)。

他方、「仮出願制度を設ける」と主張されている点は目新しく、興味深い。

この制度案は、米国が特許法改正に当たって、諸外国に求めている内容と重なる部分がある。米国の制度を変える引き金にするためにも、日本が制度変更をする手もあって、その場合であっても、大学・研究機関にはメリットがあり、ひいては大学・研究機関に強みがある技術分野で日本のプレゼンスが向上する…という趣旨の主張が背景にはあるのかな、などと勝手に想像してしまう。

□提言を実現することの望ましさを考えると…
提言のうち、学術・特許文献のシームレスな検索の実現は、主に特許庁に向けたメッセージであると思う。おそらく、IPDL(工業所有権情報・研修館)とJ-Dream(科学技術振興機構)、CiNii(情報学研究所)の壁を超えた連携がポイントとなるだろう。それが達成できるのかは、官僚機構研究の視点からは面白いかもしれない。

ところで、この提言が「シームレスなデータベースを構築し、広く開放すること」を提言するものでないことは注目に値する。仮にそのようなデータベースが出来ると、上記のようなデータベース間の縄張り争いを起こすことはもちろん、学協会が独自に公開している電子ジャーナルの意味も没却し争いの種になるだろう。

次に、仮出願制度については、確かに大学や公的研究機関には望ましく(注2)、大学の発明を実用化するさらなる追加投資を呼び込みやすくする点で利点がある。
ただし、坂田教授が指摘されるように、大学では、どの部分を共有として、どの部分を守るかという「知的財産哲学が定まっていない」ところが多いように思う。その中で、社会で共有する範囲を広く設定すべきと考える大学を許容しても良いように思う私の立場からは(注3)、仮出願制度は、特許取得を是とする価値判断からのみの制度として理解されないことを願う。
少なくとも、大学自身が発明についての排他権を取得することの望ましさを、改めて確認した上で制度の検討を行うことが望ましいのではないだろうか。
(注1)坂田教授は経済産業省の方であるので、既に行われている施策の宣伝目的でもあるのかも。
(注2)過去、本ブログでも指摘した。「[特許]アメリカの中に先願主義へ転換を嫌がる声がある理由は何か?」(2008年3月27日記事)参照。
(注3)本ブログ「[知財一般]大学と知的財産:知的財産権確保とコモンズ、戦略として双方の選択をもっと明示的に許容することもいいのでは?」(2009年1月4日記事)参照。
posted by かんぞう at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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