2009年05月26日

[特許]大学からの特許出願の現状・今後(その1)

特許庁「大学知財研究推進事業研究成果報告会」(2009年5月21日開催)を聴いてきた。時間の都合で2つしか聞くことができなかったが、その参考になった点と考えた点をまとめた。


■木下孝彦(財団法人比較法研究センター)「大学の国際連携に係る海外特許出願戦略に関する研究」
□報告概要

(1)日米の違い
・米国と比較すると、日本の大学は海外出願率が低い。ただし、米国の主要大学のインタビュー調査結果によると、米国の主要大学・研究機関であっても自国の市場性をなお、自国以外の出願先として欧州がいずれもおおむね多いことは共通している。
・米国の主要大学と比較すると、日本の主要大学は企業との共同出願率が高い(米国は10%程度、他方、日本は40%程度)
(2)提言
・海外を第一国出願とすること、英語で出願書類を作成することを検討するべき。
・海外出願を行うために、大学間の連携を検討するべき。
・研究成果を共有とすることが妥当か検討するべき。

□私見
(1)産学連携の研究で開発する技術が、日本を生産地とする製品の生産に関する技術に偏りがちなのか?)あるいは、海外企業との共同研究が多いのか?
報告では追究されていなかったが、日本の大学は企業との共同出願率が高いにもかかわらず、海外出願率が低いことが気になる。日本の出願人は海外への出願件数が米欧に比べて少ないわけではなく、むしろ、件数ベースでは多い(注1)。この傾向は日本企業にもあてはまると推測される。そうであるならば、日本企業との共同出願であれば海外出願比率は高まるのではないだろうか。報告されたデータの分析結果はこの直感に反する。
この背景を説明しうる仮説としては次の3つが考えられる。
 ・日本の大学における産学連携研究の成果は、生産技術に偏りがちであり、かつ、その利用が日本国内に留まる技術分野(日本を生産地とする製品分野)に偏りがちである
 ・日本の大学における産学連携研究の成果は、国際的に通用するものでない、または、国際的に通用するものは企業名で出願されている。
 ・日本企業以外との共同研究が多い
このうち、後者の「日本企業以外との共同研究が多い」との仮説は、日本の大学の共同研究先が限定されていることを問題視する声に鑑みると棄却される(注2)。残る2つの仮説は今後検証したい。

(2)共有特許としない方がよいのか?
報告では米国の主要大学の運用との比較から、共有特許とすることの見直しが提言されていたが、本報告や他の報告を踏まえると、本当に妥当なのか疑問が沸いてきた。
報告で指摘されていたように、日本の大学の知的財産部門の体制・予算が不十分であるからこそ、共同研究者や利用者となる企業のコミットメントを得た方が望ましいのではないだろうか。
別の報告でもあったように、共同出願であるほうが特許査定率が高い(出願費用に関していえば知的財産部門の予算を浪費する結果となっている(注3))(注4)
このように、共同出願を経た方がよいことが示唆されている。わが国の特許法上、共有特許とすると権利の利用に当たって手間が増えることから、出願過程で共有し、その後、単独の権利帰属にすることも考えられるが、これでは権利成立後に片方が特許の利用をコントロールする権利を失うことになる。いかにも片方に都合が良すぎる、と評価されてしまうこともあるだろう。そうであるならば、結果として共有特許となることはやむをえないのではないか。
なお、米国の大学で共有特許が少ない理由の1つとして、米国特許法上共有特許の利用に、他の共有者の承諾が不要であることがあるのではないか(注5)。米国ではそうだから、というのは理由として説得力に乏しい。

(注1)特許庁『特許行政年次報告書2008年版』(2008年)
(注2)文部科学省 科学技術・学術審議会・技術・研究基盤部会・産学官連携推進委員会「大学等の国際的な産学官連携活動の強化について」(2006年)
(注3)もちろん、無駄な登録をあきらめたために拒絶されたものも含まれており、
(注4)株式会社三菱総合研究所『大学における研究成果と特許の質の関係に関する研究』(2009年)
(注5)なお、話がそれるが、興味があったので調べた結果、私が勉強になったものとして:米国では発明者を出願人としなければならないため、PCTルートで米国に出願する場合、出願人に発明者を含める必要がある。そのため、申請書類に「米国のみでの出願人」というチェックボックスが設けられている。
posted by かんぞう at 22:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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