2009年05月10日

[知財一般]オープンソースソフトウエアと著作権・特許権(Leveque論文読書メモ)

Francois Leveque & Yann Meniere, "Copyright versus Patents: the Open Source Software Legal Battle", 4(1) Review of Economic Research on Copyright Issues, 2007, pp. 27-46読書メモ

パリ国立高等鉱業学校のLeveque教授がオープンソースソフトウエアと著作権および特許権のかかわりを整理した論文。学術的な新しさのあるものではないが、整理としてわかりやすかった。
私のつたない英語を少しでもレベルアップするためのお勉強用に読んだものであるので、私見はそれほどない(笑)。

■論文の概要
(1)問題意識
オープンソースソフトウエアは、copyleftという言葉を使ったことや、オープンソースコミュニティーやその権威がEUのソフトウエア特許に反対したために、反知的財産制度の立場をとると思われているが誤解である。
(2)著作権との関係
オープンソースソフトウエアライセンスは著作権制度を核としており、オープンソースソフトウエアの利用者に、ライセンス条項の遵守を担保している。(なお、ライセンス条項はライセンスごとに異なる。たとえば、多くのライセンスではオープンソースソフトウエアをもとに改変したソースコードの開示は求めていない。GPLは多様なライセンスの中で、改変したソフトウエアの商業利用を厳しく制限するライセンスである一方、他のライセンスでは、改変したソフトウエアをオープンソースライセンス以外でライセンスし、投下資本を金銭的に回収する手段を担保している。)
実際に、オープンソースソフトウエアの開発状況を分析したFershtman et al[2005](注1)によると、金銭的なインセンティブを確保する道が担保されているAcademic Licenseの方がGPLよりプロジェクト当たりの開発者の参加者数が大きく、Lener et al[2005](注2)によるとプロジェクトリーダーは参加者を集めるためAcademic Licenseを好む傾向がうかがえる。(他方で、改変したコードを開示し共有する必要のないBSDライセンスの元で改変されたソフトウエアについても、ソースコードの開示を行う傾向があるなど、開発者にとっては金銭的なインセンティブ以外の利益(名誉等)を好む傾向も見られる)。このように、オープンソースソフトウエアは著作権に親和的でないとは言えない。
(3)特許権との関係
オープンソースソフトウエアでは特許権も問題となりうる。ICT分野では多数の特許を含む傾向があり、しかも、ソフトウエア特許はその進歩性が十分に明らかでなく権利が不安定(注3)なためにライセンスの要否を決めにくく、結果としてHold upを(筆者注:事実上)招きやすい。
ただし、その弊害は主に大手のファームに限られるものと思われる。Hall et al[2001]によれば、オープンソースソフトウエアに対する特許権の行使者、行使の対象とされた者双方が大手ファームであることが多い。(筆者注:古典的な)経済学に則っても、機会主義的行動をとる特許権者であっても、損害賠償を十分に回収できる大手ファームを狙うことが多く、通常のユーザーは訴訟の対象となりにくい(p40)。そのためか、大手のファームではオープンソースソフトウエアに関し多数の特許出願を行っているが、かえって特許の藪を生じさせる弊害を生じさせている(p41)。なお、小規模なファームでは特許侵害を恐れるあまりニッチな技術に走る傾向がうかがえる(p41)。
このような特許侵害の脅威には「集団的安全保障」体制が取られるべきである。
実際にいくつかの取り組みも存在する。
大手ファーム同士が特許権の包括的な利用許諾を行う例(MicrosoftとNovelの例)や、特許の開放を行う例(IBM)がある。後者のうち、Patent Commonsはオープンソースコミュニティに対する特許権行使への反撃手段としても用いられている。これに加えて、ライセンス条項に特許権に関する条項を入れる取り組みも進んでいる。また、特許侵害訴訟へのコミュニティとしてのファンド創設や、ソフトウエア分野の先行技術文献収集の取り組みなども行われている。
これらの取り組みは特許侵害訴訟の脅威を減少させている。もちろん、完全に脅威をぬぐい去るものではないが、オープンソースソフトウエアが既存のソフトウエア創作による利益を超えるものを生む余地を作り出している。

■私見
オープンソースソフトウエアが著作権制度と相いれないものではないということはおそらく共通認識となっている(注5)。
他方で特許権への備えとして十分であるかについては意見が分かれるところであると思われる。GPL v3で特許条項が含まれたが、これはインサイダーにのみ有効である。アウトサイダーへの備えとしては、ファンドが創設されていること、先行技術文献の蓄積が行われていること、に絞られれる。
もっとも、このような取り組みは他では見られず、自発的な協力が求められる仕組みであるからこそといえるかもしれない(その意味で特許権行使を試みる者には大きな脅威になっている可能性がある)。
なお、Levequeは特許権行使の脅威はもっぱら大手ファームであることを強調するが、個人の開発者であっても通常のライセンス料分の資産を保有し、そのライセンス料額が訴訟費用を上回っていれば十分な脅威となる。Discovery手続きを採る国であれば訴訟費用が高額化するために抑止力となるだろうが、たとえば日本やドイツなどでは当てはまらないのではないだろうか。

ただ、Leveque論文でもそうだが、もっぱら問題は米国内でのことに限られていることが気になる。ソフトウエア特許のこれまでの付与方法や、特許制度が大きく影響している可能性もあるのかもしれない。

(注1)C. Fershtman and N. Gandal, "Open Source Software: Motivation and Restrictive Licensing", 4(2) Journal of International Economics and Economic Policy, 2007.
(注2)J. Lerner and J. Tirole, "The Scope of Open Source Licensing", 52 Journal of Law, Economics and Organization, 2005.
(注3)D. Burk and M. Lemley, Designing Optimal Software Patents in Intellectual Property Rights in Frontier Industries: Software and Biotechnology 81 (Robert Hahn, ed., 2005)
(注4)B. Hall and R. Ziedonis, The Patent Paradox Revisited: An Empirical Study of Patenting in the U.S. Semiconductor Industry 1979-1995, 32 RAND Journal of Economics, 2001.
(注5)例えば日本では、平嶋竜太「オープンソース・モデルと知的財産法−序論」相田義明・平嶋竜太・隅蔵康一『先端科学技術と知的財産権』(発明協会、2001年)57頁、今村哲也「オープンソースと著作権」隅蔵康一『知的財産政策とマネジメント』(白桃書房、2008年)41頁。
posted by かんぞう at 21:32| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆知財一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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