2009年05月30日

[時事][著作権]駒込大観音仏頭改変事件(その1)

著作者の死後の人格権侵害にあたる行為についてのそうめったにない判決が下された。
まだ判決文を入手できていないが報道発表の限りで論点となりうるところを抽出したい。

■事実関係
毎日新聞2009年5月29日の記事は次のように報道している。
東京都文京区の光源寺にある仏像「駒込大観音」の頭部を無断で取り換えたのは、制作した仏師の著作権侵害として、遺族が寺を相手取り、頭部を元に戻すよう求めた訴訟で、東京地裁は28日、訴えを認める判決を言い渡した。大鷹一郎裁判長は「頭部は仏像の重要部分。改変は制作者の意図に反している」と指摘した。

 判決によると、駒込大観音は江戸時代の1697年につくられたが、1945年の東京大空襲で焼失。寺は87年、仏師に新たな仏像の制作を依頼し、93年に完成した。99年に仏師が死亡した後、寺は別の仏師に新しい頭部の制作を依頼して取り換えた。原告側は「遺族への報告もなく、制作者の創作意図を無視した形で改造され、一般の目に触れている」と主張した。


読売新聞2009年5月29日の記事は、
現住職は訴訟で「元の像はにらみつけるような表情で評判が悪く、すげ替えはやむを得なかった」と主張したが、判決は「信者がすげ替えを望んでいたとまでは認められない」と指摘。

としている。

このほか、知財情報局では
東京都文京区の光源寺にある仏像「駒込大観音」の頭部が無断で取り換えられ、制作した仏師の著作権が侵害されたとして、亡くなった仏師の弟の男性が寺などに対して、頭部の復元などを求めた訴訟で、東京地裁は5月28日、訴えを認め、寺側に頭部を制作当時の状態に戻すことを命じる判決を下した。
(中略)
なお、仏師の弟の男性は、仏像の共同制作者であり著作権者であると主張していたが、これについては、裁判長は「仏像の制作に関する作業内容や経緯の具体的な供述がなく、共同制作者とまではいえない」として否定。しかし、遺族として復元を求めることは可能として、その請求の一部を認めた。
URL:http://news.braina.com/2009/0529/judge_20090529_001____.html

とある。これらを総合すると、
1993年 著作物が完成
1999年 著作者死亡
200?年 著作物改変
200?年 著作者の弟が、主位的請求として共同著作者の同一性保持権侵害に基づく復元請求、予備的請求として遺族の立場として著作者死亡後の著作者人格権に相当する行為の救済を求めた
という事実関係があることが推測される。

■考えられる論点
報道を見る限り次のような疑問がわく。報道は必ずしも法的な論点を把握して記述しているわけでないので、判決文を読まない限りわからないが…。

□本当に主位的請求と予備的請求があったのか?訴訟指揮なのか?
知財情報局の報道によると、原告は著作者の地位に立って訴訟を起こしている。周到な弁護士でない限り、遺族固有の立場での請求は起こさないようにも思う。あるいは、裁判所が訴訟指揮を行ったのかもしれないが、もしそうだとすると民事訴訟法上の問題はないのだろうか?

□事実認定に関する論点:著作者が信者の合理的な意思を尊重する旨を宣言していた?
興味深い点として、読売新聞報道は「信者がすげ替えを望んでいたとまでは認められない」ことに判決が言及していたことに触れている。これは「信者がすげ替えを望んでいた」のであれば著作者の意を害しないとの判断があったことを示唆する。
著作者がそのような意思を明示していた可能性もあるし、「その意」を傍論ながら合理的に解釈したのかもしれない。仮に後者であるのならば、遺族の言ったもの勝ちになるのではないか、とすら認識されることもある著作権60条但し書きに言う「著作者の意」に踏み込んだ判決として、おもしろい先例となる。

■余談:有名な仏像であるため、私的領域の改変ではなかったことは明白
著作権法60条(著作者の死後の人格権侵害にあたる行為)の規定は、私的領域で行われた改変等には適用されない。
しかし、ウェブで調べる限り駒込大観音は著名な仏像のようで、これを見るために参拝する人も少なくないようである。そうすると、私的領域で行われた改変と評価することは出来ず、被告とされた寺院が著作権法60条にいう「著作物を公衆に(中略)提示する者」にあたることした認定は適切である。
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2009年05月28日

[特許]大学からの特許出願の現状・今後(その2)

特許庁「大学知財研究推進事業研究成果報告会」(2009年5月21日開催)聴講メモ

■瀬川友史(株式会社三菱総合研究所)「大学における研究成果と特許の質の関係に関する研究」
□報告概要
(1)調査対象
・本調査は特許の質を「技術の質」「法律的な質」「経済的な質」に分節し、「法律的な質」に限って分析を加えている。
(2)大学の知的財産活動と提言
・審査経過情報の集計によると、特許出願の目的、技術分野、代理人とのネットワーク、権利化方針は大学により異なっている。例えば、大学の独立行政法人化後は、依頼する代理人がそれまでは特定の代理人に偏りがちであったが、現在は多様化している。また、早期審査を徹底的に活用する大学が存在する。
・このような多様性を踏まえ、出願の目的を明確化し、戦略を検討するべき。
(3)明細書記載の現状と提言
・限られたデータではあるが、これを分析すると、「単純な記載ミス」「請求項に対応する記載が明細書に見られない」「発明の課題解決手段の整理が不十分」など、明細書作成上の更なる質の向上を図る余地がある。
・記載の充実のため、研究者の協力を得つつ丁寧な明細書作成を行うべき。そのために国内優先権の活用を行うことも一手段である。
(4)権利範囲の現状と提言
・データを分析すると、大学発特許は、拒絶査定を受けることなく特許査定を受けるものが多い、拒絶査定に対して請求項を削除しがちである、など、権利範囲を縮小する方向に向かいがちであることがうかがえ、インタビュー調査からも事業化が明確でないため死守すべき権利範囲が無いことが指摘されている。
・技術移転を意識し、研究者、知的財産部門、弁理士の連携が望まれる。

□私見
大学の知的財産活動の多様性や、大学発特許の審査経過の特徴をしっかりとデータで押さえ、視覚的にも非常にわかりやすいグラフで示しており、優れている。大学全体の質の把握にはもちろん、個別の大学のデータを示している点は、他の大学としのぎを削る知的財産活動を行う大学には、ある種の成績票のようなもので、気になるものだろう。
ただし、大きなテーマの足元を固めるために、研究の範囲を限定している結果、「大学の特許の質は高いのか?」との問いの答えを期待したときには、物足りない点はある。しかし、もし答えが出るならばとてつもない成果となるだろうし、まずは基礎から固めることが適切であろうから、本報告のアプローチの意義は小さくない。

とはいえ、試論として踏み込んだ結論を言う余地もあるように思う。報告で示された提言が、かなり実務的に踏み込んだものであったことを考えると、大枠として質に問題は無いと言ってよいのではないか。
いずれにせよ、大学関連施策の根拠となる有益なデータ分析であると思われる。
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2009年05月26日

[特許]大学からの特許出願の現状・今後(その1)

特許庁「大学知財研究推進事業研究成果報告会」(2009年5月21日開催)を聴いてきた。時間の都合で2つしか聞くことができなかったが、その参考になった点と考えた点をまとめた。


■木下孝彦(財団法人比較法研究センター)「大学の国際連携に係る海外特許出願戦略に関する研究」
□報告概要

(1)日米の違い
・米国と比較すると、日本の大学は海外出願率が低い。ただし、米国の主要大学のインタビュー調査結果によると、米国の主要大学・研究機関であっても自国の市場性をなお、自国以外の出願先として欧州がいずれもおおむね多いことは共通している。
・米国の主要大学と比較すると、日本の主要大学は企業との共同出願率が高い(米国は10%程度、他方、日本は40%程度)
(2)提言
・海外を第一国出願とすること、英語で出願書類を作成することを検討するべき。
・海外出願を行うために、大学間の連携を検討するべき。
・研究成果を共有とすることが妥当か検討するべき。

□私見
(1)産学連携の研究で開発する技術が、日本を生産地とする製品の生産に関する技術に偏りがちなのか?)あるいは、海外企業との共同研究が多いのか?
報告では追究されていなかったが、日本の大学は企業との共同出願率が高いにもかかわらず、海外出願率が低いことが気になる。日本の出願人は海外への出願件数が米欧に比べて少ないわけではなく、むしろ、件数ベースでは多い(注1)。この傾向は日本企業にもあてはまると推測される。そうであるならば、日本企業との共同出願であれば海外出願比率は高まるのではないだろうか。報告されたデータの分析結果はこの直感に反する。
この背景を説明しうる仮説としては次の3つが考えられる。
 ・日本の大学における産学連携研究の成果は、生産技術に偏りがちであり、かつ、その利用が日本国内に留まる技術分野(日本を生産地とする製品分野)に偏りがちである
 ・日本の大学における産学連携研究の成果は、国際的に通用するものでない、または、国際的に通用するものは企業名で出願されている。
 ・日本企業以外との共同研究が多い
このうち、後者の「日本企業以外との共同研究が多い」との仮説は、日本の大学の共同研究先が限定されていることを問題視する声に鑑みると棄却される(注2)。残る2つの仮説は今後検証したい。

(2)共有特許としない方がよいのか?
報告では米国の主要大学の運用との比較から、共有特許とすることの見直しが提言されていたが、本報告や他の報告を踏まえると、本当に妥当なのか疑問が沸いてきた。
報告で指摘されていたように、日本の大学の知的財産部門の体制・予算が不十分であるからこそ、共同研究者や利用者となる企業のコミットメントを得た方が望ましいのではないだろうか。
別の報告でもあったように、共同出願であるほうが特許査定率が高い(出願費用に関していえば知的財産部門の予算を浪費する結果となっている(注3))(注4)
このように、共同出願を経た方がよいことが示唆されている。わが国の特許法上、共有特許とすると権利の利用に当たって手間が増えることから、出願過程で共有し、その後、単独の権利帰属にすることも考えられるが、これでは権利成立後に片方が特許の利用をコントロールする権利を失うことになる。いかにも片方に都合が良すぎる、と評価されてしまうこともあるだろう。そうであるならば、結果として共有特許となることはやむをえないのではないか。
なお、米国の大学で共有特許が少ない理由の1つとして、米国特許法上共有特許の利用に、他の共有者の承諾が不要であることがあるのではないか(注5)。米国ではそうだから、というのは理由として説得力に乏しい。

(注1)特許庁『特許行政年次報告書2008年版』(2008年)
(注2)文部科学省 科学技術・学術審議会・技術・研究基盤部会・産学官連携推進委員会「大学等の国際的な産学官連携活動の強化について」(2006年)
(注3)もちろん、無駄な登録をあきらめたために拒絶されたものも含まれており、
(注4)株式会社三菱総合研究所『大学における研究成果と特許の質の関係に関する研究』(2009年)
(注5)なお、話がそれるが、興味があったので調べた結果、私が勉強になったものとして:米国では発明者を出願人としなければならないため、PCTルートで米国に出願する場合、出願人に発明者を含める必要がある。そのため、申請書類に「米国のみでの出願人」というチェックボックスが設けられている。
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2009年05月25日

[時事]変な特許は権利化するな、から、活用も支援します、へ

昨日朝の朝日新聞で特許庁の施策検討の方向性が紹介されていた。
朝日新聞「「休眠特許」発掘に本腰 特許庁、特典も検討」2009年5月24日記事
(略)埋もれている特許の活用が課題になっている。07年には約39万件の特許申請があった。特許は20年で切れる。埋もれた特許をどう利用していくかを含め、特許庁は、11年の通常国会で50年ぶりとなる特許法の抜本的な改正案を提出する考えだ。
 大学や企業の発明と違い、個人が出願した特許はなかなか人目に触れにくい。
(中略)
 特許庁は、特許の利用を促す仕組みとして、特許を新商品や新サービスに積極的に活用してほしい発明者らに、権利の維持に必要な費用を減額する特典を与えられないかなどを検討している。

第3期知的財産戦略の基本方針を見る限り、利用を促す方策は中小企業・個人に限っていないので、本記事が個人の出願した特許を問題としているのはあくまで一例なのだろう。
審査の滞貨が問題となり、活用をしない特許出願の審査請求の抑制をはかることを狙いの一つとして、2004年に特許審査料が値上げされたが、それから比べると隔世の感がある(なお、中小企業・個人に対しては審査料減免を設けており、審査請求抑制は行われていない)。

ただ、技術移転という意味での特許権の利用を促すのであれば、「使いやすい明細書の記載」「検索されやすい明細書の記載」を検討し、発明家や弁理士に周知することも有効であるように思う。例えば、記事の示す通りなかなか人目に触れにくいとされる個人発明の技術移転例を調べて、そのきっかけや、明細書記載上のポイントを検討してみても良いのではないだろうか。
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[時事]日本工業所有権法学会学会総会・研究会延期

島並先生のブログを経由して以下の情報を知った。
6月6日(土)に開催を予定されていた本年度学会総会・研究会は
神戸での新型インフルエンザ流行拡大に伴い、延期となりました。
(日本工業所有権法学会Website)
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jaipl/

えええええええ。
残念であるが、仕方ない。
(が、間の悪い筆者は昨日飛行機を予約してしまった…痛恨である。情勢を読めなかったことが恥ずかしい。)
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2009年05月24日

[特許]欧州特許の国内移行にあたって移行費用は障壁となるか

Dietmar Harhoff, Karin Hoisl, Bettina Reichl and Bruno van Pottelesberghe de la Potterie, Patent Validation at the Country Level -The Role of Fees and Translation costs, Munich School of Management discussion paper, 2008 読書メモ

■概要
欧州特許庁への出願を各国で国内出願に移行するにあたって、どのような要因がどの国で国内移行を行うかを決定しているのかを計量分析した論文。
統計的な分析によると、主たる要因は、国の人口とGDP、それから欧州特許条約への加盟期間である。対象国の経済上の特徴よりは、これらのマクロ的な要因が大きく影響している。従たる要因は、移行費用であった。翻訳費用は移行費用を含むモデルの分析では要因として表れなかったものの、そもそも翻訳費用を正確に収集しきれていないため、要因でないとは言いきれない。

■私見
翻訳のコストを抑えるために2008年5月に発行されたLondon Protocolの効果を予測するための研究であったと思われるが、顕著な効果が現れることが期待されない、ということが結論なのだろう。
主たる要因として出された人口・GDP・欧州特許条約への加盟期間については、いずれも大国(ドイツ、英国、フランス、イタリア)の影響であると思われる。裏返せば、十分な市場性がある国に限定した出願がなされていることの現れであるのかもしれない。
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[特許]RCLIP国際知財戦略セミナー「日本企業と特許訴訟:フォーラムショッピングによる攻撃的特許戦略」聴講メモ

2009年5月9日に開催された上記のセミナーは、特許訴訟の裁判所ごとの特許権者勝率を国により具体的に比較ができる、大変興味深い内容となっていた。詳細はRCLIPの機関誌に掲載されるはずなので省く。勉強となったポイントを以下に雑多に挙げる。

■勉強になった点
□国内でのフォーラムショッピングに関して

・英国、日本では侵害裁判所がほぼ限られておりフォーラムショッピングは重要でない。他方、米国、ドイツ、中国ではフォーラムショッピングの余地があり、とりわけ、米・中では重要。
・米国でフォーラムショッピングが有効となっている理由の一つが、(上記のように)陪審員の存在(たとえば、フロリダでは高齢者が多いために、製薬企業の特許権に対して否定的な意見をとりがちとのことである)。同じ法体系をとる英国では特許訴訟で陪審員制をとっていないことには留意。この他の理由として、裁判所の独自ルールの存在も挙げられる。
・米国の中で人気No.1であるテキサス東部地裁は陪審員がUSPTOの判断に親和的であることが、特許権者勝訴率の向上の一要因(注1)。
・中国での侵害訴訟は、北京、上海よりも、江蘇省で行った方が特許権者の勝訴率が高く、統計上は、中国人よりも外国人の特許権者の勝訴率が高い。
□特許侵害訴訟について
・米国、英国ともディスクロージャーの存在により、審理や訴訟費用が高額化しがち。(英国では原・被告双方の費用負担のもと、中立な専門家が裁判官の補助人として加わるため、さらに高額)
・ドイツでは和解率が低い(50%程度)。

■私見:中国でのフォーラムショッピング
このセミナーに参加して興味深かったことの1つが中国でフォーラムショッピングが有効であることが統計によって示されたことだった。
これに加えて、中国人に比べ外国人の特許権者の敗訴率が高くないことが示されたことも有益であった。中国の民事訴訟には独自の訴訟手続が存在し、外国企業にはハードルが高いことは指摘されているが、それを乗り越えさえすれば、先行きは明るいのだろう(もちろん、ハードルが高い故に、外国企業からの特許侵害訴訟では確実に勝てる案件のみが法廷に持ち込まれている可能性は捨てきれないが)(注2)。

■私見:日本のフォーラムショッピング

日本の現状を報告された村田真一弁護士は、東京(東京地裁、知財高裁)と大阪(大阪地裁、大阪高裁)の比較をし、近年、やや東京が有利になっていることを指摘されていたが、本当は裁判官ごとに見た方が良いのだろう。もちろん、村田弁護士はそのお立場上そんなことは口がさけても言えないのだろうけれど…。

なお、朝日新聞の記事では次のように指摘されている。これは日本の特許侵害訴訟での特許権勝率が低くないことを指摘するものだが、「ある一人の裁判長の場合」というくだりがついつい気になってしまう(笑)。
東京地裁に四つある知的財産権専門部のうち、ある一人の裁判長の場合、08年の統計では原告勝訴率は14%。ところが和解する場合に、「仮に判決を出すとするとどちらが勝ちか」という裁判長の胸の内を双方に示すケースも含めると、原告に有利な解決の率は46%に跳ね上がる。ある特許弁護士は「最初から当然負けを覚悟しているような訴訟を除けば実質勝訴率は7〜8割ではないか」という。この裁判長の平均審理期間は11カ月で、和解する場合は大体7〜8カ月で胸の内を示すという。結論がわかるのも早いから、米国まで行く必要もない。


(注1)このほかに、主張に時間制限が設けられていることが、朝日新聞の記事で指摘されていた(朝日新聞グローブ15号(2009年5月11日)「特許バトルロイヤル」)。
(注2)恥ずかしいことだが、最近、知的財産制度をよくご存じない方が中国・韓国たたきに知的財産関係の紛争を叩き道具として用いていることが散見される。例えば、特許侵害訴訟についても、日本企業が不当に差別されている、などといって煽っている情報があった。個別の事案ではそういうこともあるのかもしれない。しかし、それは当事者でなければわからないことだ。ここで挙げたような情報を押さえたうえで批判されているならともかく、直観的な(あるいは根拠も無く)批判をされていると、恥ずかしくて仕方ない。他国を批判するならば、国によって実体的な制度も訴訟法も違うこと、当事者の戦略が影響していることなど、十分に加味して行わうべきだ。そうでなければ、自身の無知をさらし、ひいては我が国を貶めることになる。私は日本を大切にしているが故に、そのような煽りは嫌悪している。
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2009年05月16日

[知財の本]朝日新聞グローブ15号(2009年5月11日)「特許バトルロイヤル」

ある弁理士さんブログで朝日新聞の付録であるグローブで特許制度特集が組まれていたことを紹介されていた。
で、読んでみた。
URL:http://globe.asahi.com/feature/090511/index.html

新しいことは書いていないが、最近の知的財産関係者の話題が幅広く、わかりやすく紹介されている。有識者にコメントを求めるのでなく、キーパーソンにインタビューを行っていることも評価できる。

特許制度に対する今の見方を伝えるものとして、非常によくできた特集だと思う。
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2009年05月15日

[時事]櫻井よしこさんの特許制度についての誤解

このブログでは優れた研究や、優れた意見を整理して、それに対して思ったことを残しておくことが主な目的になっている。
人の間違いを公に指摘することは、余り意味のあることではないことだと思っている(ご本人に直接言えばよい話だからだ)。間違いを批判することは、良いものを理解しそれに基づいて考えることに比べると、格段に容易なことなので、好みではない。
だけれども、影響力のある方が行った知的財産政策に関する情報発信に誤りがあった場合については、拙いなりにも知的財産政策を見続けている人間として、その情報を目にされた方が万が一同じような誤解をされないようにして頂きたいという思いから、誤りを指摘することとしたい。

■櫻井さん、誤解です
櫻井よしこさんのブログ記事の中に、米中経済安保調査委員会の報告書の中の中国の知的財産政策に関する記述について取り上げたものがある。その中に以下の記述があった。この記述は誤解に基づくものだと思う。
「中国は2008年8月、特許法改正の検討を開始した。重要点は『絶対的新規性』基準の採用である。これによって、すでに公知の知的財産は、中国では特許の対象として認められなくなる」

中国がまだ所有していない技術や仕組みであっても、日米欧などで商品化され公知となっていれば、絶対的新規性はないとされ、中国では特許として認められないという意味だ。他国の技術を、特許料を払わずタダで使える国内法を作ったともいえる。報告書はさらに記述する。

「もうひとつの変化は、中国企業及び個人は、中国国内で達成した発明に関して、(他国の企業や個人に先駆けて)最初に出願する法的義務を免れるという点である」

この点について報告書は、さらなる情報収集が必要としているが、想像されるのは以下の悪夢のような事柄だ。中国以外の企業や個人が新技術や新案を発明したと仮定する。中国人がそうした知的財産を“不法”に入手して、中国に持ち帰ったとしよう。当然、そのような新技術や新案は中国の特許事務所には出願も登録もされていないはずだ。それでも、中国側は、それは、出願・登録されていないだけで、中国の企業、もしくは個人として、すでに中国にもあるのだと主張する。そのような主張の余地を作ったのが、昨年の特許法改正だと思われるのだ。
(出所:櫻井よしこ「中国の知的財産丸ごと乗っとり策」『櫻井よしこブログ』(2009年5月14日記事))
URL: http://yoshiko-sakurai.jp/index.php/2009/05/14/

知的財産制度を知っている方ならば、すぐにお気づきになることと思われるが、「他国の技術を、特許料を払わずタダで使える国内法を作ったともいえる」との受け取り方は大きな誤解だ。文脈を見る限り2つ誤解がある。

□絶対的新規性は世界的には趨勢
まず、絶対的新規性について大きな誤解をされている。
絶対的新規性は中国が独自にとっているものではない。我が国も下記に示すとおり同じ制度(絶対的新規性)であるし、G8諸国においても米国を除く全ての国が絶対的新規性を取っている(注1)。

第二十九条  産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一  特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二  特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三  特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
(日本国特許法)

このような制度が不公平であるとの批判は我が国においても聞いたことが無い。それどころか、特許制度の中で世界公知性導入を推し進めている立場に日本は立っている。

米国では、他の主要国と異なり、以下のような限定的な世界公知性(絶対的新規性)を取っているため、報告書で取り上げたのであろうことが推測できる。しかし米国でもその採用(若干の留保はあるが)を求める声も少なくない(注2)。
米国内のみが評価対象:発明前に他人が知っていたor使用していた、
世界が評価対象:発明前に特許査定or刊行物記載、特許出願日前1年より前に特許査定or刊行物記載
(米国特許法102条(a),(b))
(出所:米国特許法をもとに筆者作成)


□第1国出願制度は自国民にとって望ましいとは言えない制度だが…
記事では「中国企業及び個人は、中国国内で達成した発明に関して、(他国の企業や個人に先駆けて)最初に出願する法的義務を免れるという点である」という点も取り上げていらっしゃるが、このような自国を最初の出願先としなくてはいけない制度は、その国の国民や、その国で共同研究開発を行う者には制約になりはしても、それ以外の者(他国民の多く)には影響を与えない。

我が国ではそのような制度を採っていないが、これは国際的な日本の研究者や企業に不利益を与えないためであろう。もちろん、日本では軍事特許制度(または秘密特許制度)を採っていないので、そのような制度を採る意味が無い、ということも理由に挙げられる(注3)。

いずれにせよ、上記の文脈で取り上げることは、意味が無い。制度をよく理解されなかったのかもしれない。

□報告書でも両制度については批判的な立場ではない
櫻井さんは経済制度のジャーナリストではないので、特許制度を正しくご存じないことはやむを得ないと思う。しかし、元となる報告書を読むと、ご自身の思いをやや写し込みすぎて読んでしまわれているきらいがある点は指摘しておきたい。
実際に、当該箇所を見てみると報告書では懸念材料であるとの文脈で示してはいない(単に改正事実を述べただけである)。その周辺にも懸念として取り上げている文は見当たらない。
U.S.-CHINA ECONOMIC AND SECURITY REVIEW COMMISSION, 2008 REPORT TO CONGRESS, pp.34-35
Intellectual Property Rights and Patents
China has a history of flagrant violations of intellectual property rights (IPR). It now appears poised to revamp its IPR laws and regulations,which could either strengthen the protections or place another tool in Beijing's arsenal for promoting domestic industry by constraining the rights of foreign companies. In August 2008, the National People's Congress Standing Committee, China's top legislative body, began consideration of the Third Amendment to China's Patent Law. An important new proposal involves the adoption of an "absolute novelty" standard that will make it hard to obtain a Chinese patent for inventions that are already in use overseas (amended article 23 of China's Patent Law).65 Another proposed revision (amended article 21 of China's Patent Law) would removethe statutory requirement for any Chinese entity or individual first to file applications in China for inventions made in China. The new patent law is of considerable interest to U.S. companies, and its implementation and effects on trade and investment bear further scrutiny.


■注記
このように書くと、「親中派」による中国擁護意見とレッテルを貼ってしまう方もいらっしゃるかもしれない。誤解しないで頂きたいのは、私が行っていることは、櫻井さんの当該記事の中のロジックのうち1箇所が間違っていること(そして我が国の立場に沿っていないこと)を指摘していることだ、という点である。当該記事を全て批判しているわけではないし、櫻井さんを個人攻撃しているつもりもない。

前者(記事に対する賛否)について言えば、私は下記のようにやや異論はある。批判するべきは貿易障壁となる点であると考えている。だが、中国の強制認証制度は不適切な制度だと思っている点で、記事で伝えたいことに共感する点がある。私は政府調達に限るとしても貿易障壁であるとしてWTOを通じて強くメッセージを訴えていく必要があると考えている。

■注記2
ソースコード開示により「知的財産が流出する」という意見には私は懐疑的である。本当にそうだろうか?少なくとも日本の企業は、本当に重要な情報をみすみす流すようなバカではない(注4)。おそらく、強制認証によって、諸外国の企業は最新製品を中国に輸出しなくなり、型落ちのものばかりを輸出するだけになることは想像に難くない。(もちろん、その影響で中国の情報通信機器メーカーは優位に立つことは出来る(これは貿易障壁によるものと言えるだろう)。だが、世界の最新技術を積んでいるとは限らない。)
型落ち品が入ってくるだけになることは、決して中国の国民・企業にとって利益になるとは思えない。国家としては、安心・安全のためには構わないという立場をとり続けられるのだろうか。

もちろん、中国は、民間に市場を任せると失敗をするという立場を採っているだろうから、国家が安心・安全の確保を行わなきゃならんのだ、という考えが根幹あることは理解できる(が、共感はしない)。

だが、この制度が貿易障壁になりうるものである以上、自由貿易を旨とするWTOに加盟したたのだから、そのような立場を対外的に取ることは許容されない。中国はこのことに向き合わなければならない。

(注1)特許庁「各国産業財産権法概要一覧表」『特許行政年次報告書2008年版〈統計・資料編〉』掲載の7列目に各国の新規性の判断基準が整理されている。
(注2)例えば、米国の知的財産関連団体であるIPOやAIPLAはそのような立場を示している。
JETRO「特許制度調和に対する産業界・法曹界のスタンス」『ニューヨーク発 知財ニュース』(2007年7月4日記事)
(注3)我が国でも秘密特許制度導入の動きがあるが、そうすると第一国出願制度の導入も検討されるかもしれない。しかし、まずは米国で出願をする企業が少なくない中、反対の声は必ず上がるだろう。
(注4)「知的財産が流出する」との言葉は事情を十分に踏まえていないメディアのどなたかが作った可能性もあるが、貿易障壁となる点を問題視させるために、メーカー側もそのようなキャッチコピーをつかった可能性もある。だが、この言葉だけが一人歩きされると、メーカーを馬鹿にしていることになってしまっているように思う。
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2009年05月10日

[知財一般]オープンソースソフトウエアと著作権・特許権(Leveque論文読書メモ)

Francois Leveque & Yann Meniere, "Copyright versus Patents: the Open Source Software Legal Battle", 4(1) Review of Economic Research on Copyright Issues, 2007, pp. 27-46読書メモ

パリ国立高等鉱業学校のLeveque教授がオープンソースソフトウエアと著作権および特許権のかかわりを整理した論文。学術的な新しさのあるものではないが、整理としてわかりやすかった。
私のつたない英語を少しでもレベルアップするためのお勉強用に読んだものであるので、私見はそれほどない(笑)。

■論文の概要
(1)問題意識
オープンソースソフトウエアは、copyleftという言葉を使ったことや、オープンソースコミュニティーやその権威がEUのソフトウエア特許に反対したために、反知的財産制度の立場をとると思われているが誤解である。
(2)著作権との関係
オープンソースソフトウエアライセンスは著作権制度を核としており、オープンソースソフトウエアの利用者に、ライセンス条項の遵守を担保している。(なお、ライセンス条項はライセンスごとに異なる。たとえば、多くのライセンスではオープンソースソフトウエアをもとに改変したソースコードの開示は求めていない。GPLは多様なライセンスの中で、改変したソフトウエアの商業利用を厳しく制限するライセンスである一方、他のライセンスでは、改変したソフトウエアをオープンソースライセンス以外でライセンスし、投下資本を金銭的に回収する手段を担保している。)
実際に、オープンソースソフトウエアの開発状況を分析したFershtman et al[2005](注1)によると、金銭的なインセンティブを確保する道が担保されているAcademic Licenseの方がGPLよりプロジェクト当たりの開発者の参加者数が大きく、Lener et al[2005](注2)によるとプロジェクトリーダーは参加者を集めるためAcademic Licenseを好む傾向がうかがえる。(他方で、改変したコードを開示し共有する必要のないBSDライセンスの元で改変されたソフトウエアについても、ソースコードの開示を行う傾向があるなど、開発者にとっては金銭的なインセンティブ以外の利益(名誉等)を好む傾向も見られる)。このように、オープンソースソフトウエアは著作権に親和的でないとは言えない。
(3)特許権との関係
オープンソースソフトウエアでは特許権も問題となりうる。ICT分野では多数の特許を含む傾向があり、しかも、ソフトウエア特許はその進歩性が十分に明らかでなく権利が不安定(注3)なためにライセンスの要否を決めにくく、結果としてHold upを(筆者注:事実上)招きやすい。
ただし、その弊害は主に大手のファームに限られるものと思われる。Hall et al[2001]によれば、オープンソースソフトウエアに対する特許権の行使者、行使の対象とされた者双方が大手ファームであることが多い。(筆者注:古典的な)経済学に則っても、機会主義的行動をとる特許権者であっても、損害賠償を十分に回収できる大手ファームを狙うことが多く、通常のユーザーは訴訟の対象となりにくい(p40)。そのためか、大手のファームではオープンソースソフトウエアに関し多数の特許出願を行っているが、かえって特許の藪を生じさせる弊害を生じさせている(p41)。なお、小規模なファームでは特許侵害を恐れるあまりニッチな技術に走る傾向がうかがえる(p41)。
このような特許侵害の脅威には「集団的安全保障」体制が取られるべきである。
実際にいくつかの取り組みも存在する。
大手ファーム同士が特許権の包括的な利用許諾を行う例(MicrosoftとNovelの例)や、特許の開放を行う例(IBM)がある。後者のうち、Patent Commonsはオープンソースコミュニティに対する特許権行使への反撃手段としても用いられている。これに加えて、ライセンス条項に特許権に関する条項を入れる取り組みも進んでいる。また、特許侵害訴訟へのコミュニティとしてのファンド創設や、ソフトウエア分野の先行技術文献収集の取り組みなども行われている。
これらの取り組みは特許侵害訴訟の脅威を減少させている。もちろん、完全に脅威をぬぐい去るものではないが、オープンソースソフトウエアが既存のソフトウエア創作による利益を超えるものを生む余地を作り出している。

■私見
オープンソースソフトウエアが著作権制度と相いれないものではないということはおそらく共通認識となっている(注5)。
他方で特許権への備えとして十分であるかについては意見が分かれるところであると思われる。GPL v3で特許条項が含まれたが、これはインサイダーにのみ有効である。アウトサイダーへの備えとしては、ファンドが創設されていること、先行技術文献の蓄積が行われていること、に絞られれる。
もっとも、このような取り組みは他では見られず、自発的な協力が求められる仕組みであるからこそといえるかもしれない(その意味で特許権行使を試みる者には大きな脅威になっている可能性がある)。
なお、Levequeは特許権行使の脅威はもっぱら大手ファームであることを強調するが、個人の開発者であっても通常のライセンス料分の資産を保有し、そのライセンス料額が訴訟費用を上回っていれば十分な脅威となる。Discovery手続きを採る国であれば訴訟費用が高額化するために抑止力となるだろうが、たとえば日本やドイツなどでは当てはまらないのではないだろうか。

ただ、Leveque論文でもそうだが、もっぱら問題は米国内でのことに限られていることが気になる。ソフトウエア特許のこれまでの付与方法や、特許制度が大きく影響している可能性もあるのかもしれない。

(注1)C. Fershtman and N. Gandal, "Open Source Software: Motivation and Restrictive Licensing", 4(2) Journal of International Economics and Economic Policy, 2007.
(注2)J. Lerner and J. Tirole, "The Scope of Open Source Licensing", 52 Journal of Law, Economics and Organization, 2005.
(注3)D. Burk and M. Lemley, Designing Optimal Software Patents in Intellectual Property Rights in Frontier Industries: Software and Biotechnology 81 (Robert Hahn, ed., 2005)
(注4)B. Hall and R. Ziedonis, The Patent Paradox Revisited: An Empirical Study of Patenting in the U.S. Semiconductor Industry 1979-1995, 32 RAND Journal of Economics, 2001.
(注5)例えば日本では、平嶋竜太「オープンソース・モデルと知的財産法−序論」相田義明・平嶋竜太・隅蔵康一『先端科学技術と知的財産権』(発明協会、2001年)57頁、今村哲也「オープンソースと著作権」隅蔵康一『知的財産政策とマネジメント』(白桃書房、2008年)41頁。
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2009年05月07日

[意匠権]意匠権の通常実施権の登録事項のうち開示範囲制限

知的財産政策部会で、意匠・商標権の通常実施権について、特許権同様、登録事項の開示範囲を限定することが検討されている。事務局側の案では「通常実施権者の氏名等」および「通常実施権の範囲」の開示範囲を限定することは、実施または使用は公にされるものであり、制限する必要性に乏しいとして措置しないこととなっている(注1)。

しかし、意匠権の通常実施権の登録事項のうち、「通常実施権者の氏名等」および「通常実施権の範囲」の開示範囲限定は必要がないのだろうか。

たとえば部分意匠は、必ずしも一見して実施が明らかではなく、しかも、差別化の重要な要素としてその実施の事実を秘匿したいというニーズがあるかもしれない。

もちろん、ブラックボックス化して見えないような部分の意匠については、そもそも侵害判断の場面で評価されない(権利侵害とならない)と考えられるため(注2)、ライセンスを受けて実施していることを秘匿する必要は特許権に比べると極めて限定的であることは間違いない。

ただし、この議論にあたってはそもそもの問題として意匠権のライセンスがきわめて稀であることには注意しなければならない。ライセンス金額ベースでみると、特許権の約1/5000である(注3)。

だが、私は上記のような部分意匠などではライセンス活動が活発になる可能性があると思っているし、知的財産活動調査が示すように、大学等からのライセンスもいくらかは活性化する可能性があるのではないかと考えている。

(注1)産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会「意匠法・商標法上の通常実施権・通常使用権等の登録制度の見直しについて」経済産業省 産業構造審議会 第12回知的財産政策部会 配布資料(2009年1月)
(注2)知財高判平成20年1月31日(平成18年(行ケ)第10388号)。茶園成樹「物品を分解しなければ見えない部位と意匠法」L&T42号(2009年)73頁は、この判断を意匠法上正当な解釈とし、取引の円滑さを損なわない点においても妥当であるとしている。
(注3)特許庁『平成20年度知的財産活動調査』(2009年)によると、特許権のライセンス支出額(国内外企業からのライセンス。グループ企業外のみ)は1500億円に迫るが、意匠権は0.3億円である。
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2009年05月06日

[時事]特許制度研究会レビュー:特許権のライセンス契約保護

特許庁が設けた、特許制度の根本を検討する研究会の第3回では、特許の活用促進について議論が行われたようだ(注1)。主には、ライセンシー保護が議論の対象であり、
・通常実施権の当然保護(または登録によらない保護)
・独占的通常実施権に関する制度の創設
が主な議題となっていることがうかがわれる。

この議題のうち前者に関しては、産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会で議論され、『特許権等の活用を促進するための通常実施権等の登録制度の見直しについて』という報告書(注2)が出されている。その内容のレビューといったところなのだろうか。

このように議論がなかなか結論を見ないのは、知的財産権の譲受人が譲渡人の契約関係を承継することとなる…という今までの民法原則が破られるように思われること、それと、実施権設定権者(特許権)の破産時の未履行双務契約の処理の原則が破られるように思われること、の2点にある可能性もある。

もしそうであるならば、民法学や民事執行法学の議論の進展に期待したい(注3)。私自身は、情報という価値の利用の排他性が無い財について、民法や破産法体系が予定していたのか知りたい。

議論の中でおそらく公示性の要請を交代させる方向で議論が進むと思われるが、特許権を担保とした融資側や、特許権の譲り受けを活用したビジネスを展開している者からは懸念も示されるだろう。とくに知的財産担保融資は同報告書でも推進されるべきものとして位置づけられている。

そのためには、ライセンス契約の当然保護をとったとしても保護が否定される事例(権利濫用構成になるだろうか)の研究も望まれる。(私自身もその点は深めたい)

後者については長く議論になってきたところであるが、専用実施権の使い勝手を改めることで対処できる範囲もあるように思われる。たとえば、特定通常実施権(や通常実施権について議論されていること同様)登録事項の開示範囲の制限や、登録手数料の値下げなどが挙げられる。

(注1)特許庁「特許の活用促進について(基本的考え方)」特許庁 第3回特許制度研究会 配布資料(2009年4月)
(注2)産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会「特許権等の活用を促進するための通常実施権等の登録制度の見直しについて」経済産業省 産業構造審議会 第12回知的財産政策部会 配布資料(2009年1月)
(注3)情報発信にしめる鎌田薫教授の割合がやや高い印象を私は受けている。
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