2009年03月15日

[特許]欧州の特許制度改革の背景を考えてみた

国・地域により、それぞれの実情を反映して制度が検討される。裏返していうと、検討内容を見ると、その背後にある関心が透けて見えることとなる。

このような視点で、欧州の特許制度改革の議論を眺めていると面白かった。覚書としてまとめてみた。

■欧州における特許制度改革の方法性(注1)
欧州委員会から特許制度改革に関するコミュニケーションペーパーが2007年以降、主なもので2つ出されている(1つは知的財産制度全般に関するものであるが…)。
2007年4月には、「Enhancing the patent system in Europe」《EUへのリンク》(注2)が出され、以下の3点が主な論点になっている。
・共同体内での特許訴訟の裁判管轄
・特許審査の質向上
・中小企業による知的財産取得・活用支援

2008年7月には、「An Industrial Property Rights Strategy for Europe」《EUへのリンク》(注3)が出され、以下の点が論点となっている。
・特許審査の質向上
・未利用特許の活用促進
・実用新案制度の効果測定
・知的財産と標準(とくにICT分野)の相互の関係の分析
・中小企業による知的財産取得・活用支援
・共同体内での特許訴訟の裁判管轄
・模倣対策

■考えられる背景
□中小企業が注目される理由

まず、いずれも中小企業が重要なキーワードとなっていることが分かる。これは、欧州の製造業に占める中小企業の割合が少なくないこと(注4)が挙げられる。おそらく、このような問題意識が先頭に出るのは、中小企業の中で知的財産権の活用が進んでいないのだろう。

ただし、中小企業といえども自社の研究開発の成果(とりわけ中小企業であればコアとなる成果は限られているはずである)を守ることへのインセンティブは乏しくないであろうから、いったい何が知的財産活用を妨げているのかは気になる。

1つは、欧州全域で知的財産権を守る仕組み(または運用)が整合的でなくコストがかかるということにあるだろう(貿易障壁がない分、欧州全域で保護をしないと実効性が無いことがその背景にある)。
だからこそ、2007年のコミュニケーションペーパーでは裁判管轄の整合性が議論の対象になっているものと思われる。

ただ、経営規模があまりに小さく、そもそも出願のコストに耐えられないという状況でないかどうかも気になる。税制が中小企業(とりわけ零細企業)にやさしく、また、中小企業支援策が充実しすぎていると、短期的には、成果を守るという観点からは経営規模の十分でない中小企業が多数存在することになり、競争力の観点からは効率的でない結果を生んでしまう。そのような状況でないのかどうか、読み取るに当っては注意が必要だろう。

□標準が明示されている理由

欧州の中で、貿易障壁になりえてしまうものとして特に懸念されていた1つが、各国でそれぞれ標準化されていた規格(とくに情報通信分野)である。欧州規格に対して行われた特許権行使により特定の地域の利害が優先されて、規格が域内全体としては望ましくないものになることが懸念されているのかもしれない。

特にコミュニケーションペーパーが挙げる情報通信分野は特許の藪が生じやすい。規格に含まれる多数の特許権のうち、たった1つの特許権の行使が、規格全体にダメージを与えることが懸念される。議論の俎上にのぼることはうなずける。実際、情報通信分野の欧州規格を担当しているCEN、CENELEC、ETSIに注目すると、これらの団体(とくにETSI)では知的財産権ポリシーが十分に議論されているようであり(注4)、高い関心がもたれていることがうかがえる。

日本では、同じく特許の藪が生じやすい電機分野に強みがあることを考えると、標準と特許の議論を深めておくことが適切だろう。

(注1)なお、著作権については「Copyright in the Knowledge Economy」として2008年にコミュニケーションペーパーが公表されている。
(注2)日本語訳は、田上麻衣子(訳)「資料 欧州における特許制度の強化」特許研究44号(2007年)。
(注3)日本語に翻訳された概要がJETROデュッセルドルフセンターより発表されている。>こちら《JETROへのリンク》を参照。
(注4)NEDO「NEDO海外レポート 科学技術および競争力に関する主要統計報告書2008から」(2009年)
(注5)「知財と標準化国際シンポジウム」(経済産業省・総務省・社団法人経済団体連合会主催、2008年12月9日開催)〔Michael Frohlich発言〕。
posted by かんぞう at 13:56| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月10日

[知財一般]アフリカにおける産業財産権

AIPPI 国際知的財産シンポジウム「アフリカ諸国の産業財産権制度を巡る現状と今後」(2009年3月9日開催)講演メモ

アフリカの産業財産権について、本ブログをお読みいただいている方には接点があるだろうか。私も接点が乏しいのだが、一度、西アフリカの特許制度を調べる機会があったため、上記のようなシンポジウムに惹かれて行ってみた。

多くの国で法制度としては整備されており、国際的にも整合的な制度となっている。しかし、執行例が見られず、手続きがどのように進むのか不明確である、というような印象を受けた。商標制度の活用が中心である、という印象も強く受けた。

まだまだ産業が十分でなく、製品の輸入国であるためだろう。
模倣品の余りの多さに対抗するためもあるのか、南アフリカでは広告のコンセプトまでも保護する法(注1)制度も設けられている。

南アフリカ、ナイジェリアなどネクスト・イレブン諸国では執行例も多いようであるが、その分、運用に注意する必要があるようだ。たとえば、南アフリカでは、多項クレームの中に1つでも無効なクレームを含むと特許権行為は出来ないため、ジェネリック医薬メーカーがこれを活用して特許権行使を無効にする方向で制度が利用されている例が紹介されていた(Pfizer v. Cipia (Norcasac) (2005))。

また、制度自体が特殊な国も存在する。
イスラム系の国ではアルコール、豚肉等に関する商標は取得することが出来ないところもあるようだ。
リビアでは2002年以前の商標保護は全て無効とする法律が定められたりもしている。
スーダンでは商標権侵害に対しては刑事処罰がなされるが、損害の民事的回復は存在しないとの指摘もなされた。
なかなかおもしろい。

(注1)Advertising Standards Authority Code
posted by かんぞう at 23:14| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆知財一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月08日

[つぶやき][意匠]不況だからプロダクトデザイン…かもしれない

「消費者300人に聞いた価値と価格の関係」日経デザイン2006年2月号26頁-73頁(2006年)は大変興味深い特集だ。

この特集では、いくつかの商品について、色、形状、質感、その他の新しい価値要素が付加されたときに、どの程度価格が高くても買うか、ということを消費者に尋ねている。

商品ごとに横断的な質問は行っていないようなので、単純な比較は出来ないが、実用的な商品(携帯電話、キーボード、掃除機)について色、質感、形状が良くなるとおおよそ10%以上価格を上乗せして良い、との回答傾向があった。他方、パッケージデザインについては5%の上乗せとの回答に留まっていた。

おおよその傾向に基づく分析で恐縮だが、質感はともかく、プロダクトの色彩、形状は意匠制度で保護される対象であり、これらの制度をインセンティブとして十分意識してデザイン開発に注力すれば、コストカットよりは効果があるかもしれない。

…もっとも、行動経済学の研究から明らかなように、実際に消費者が買うときは横にある商品との相対的関係で購買が決定されてしまうようでもあるのだが。
posted by かんぞう at 15:39| Comment(0) | TrackBack(0) | ●つぶやき | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月05日

[つぶやき]政府答弁を見落としていた

Copy & Copyright Diaryの末広さんが2009年2月28記事「質問趣意書への政府答弁ではダメだ」で、著作権法38条の4にいう「複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合」の解釈について、平成16年度に出された政府答弁への言及が、平成16年以降に出版された著作権法の解説書で触れられていないことを指摘されていた。

私はこの記事を読んで、普段から解釈に当たって立法者のやり取りを確認していなかったことを気づかされた。法解釈にあたって、立法の意思を推し量るためにも立法府でのやり取りを尊重しなくてはいけないのだが、なぜか行政庁での審議会のやり取りだけに目がいってしまっていたのが正直なところだ。

政府答弁ではダメだ、という思いも理解できるが、私としては、立法の場のやり取りも踏まえた解釈論を世に問うことで、半歩でも前進させたいと思う。

いずれにせよ、自戒をこめて、関連情報へのリンクをまとめた。拘束力は無いが附帯決議も重要であるので、併せてまとめておいた。

■リンク
□衆議院 > 質問答弁
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_shitsumon.htm

※衆議院の附帯決議は一覧の形になっていない。

□参議院 > 質問主意書情報
http://www.sangiin.go.jp/japanese/frameset/fset_c03_01.htm

□参議院 > 附帯決議
http://www.sangiin.go.jp/japanese/frameset/mf_c04_04.htm
posted by かんぞう at 00:54| Comment(0) | TrackBack(0) | ●つぶやき | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月02日

[知財一般]顧客参加型イノベーション

商品開発に顧客を巻き込む(Enroll)することの利点に触れる意見をちょくちょく見かける。新たなオープン・イノベーションのステップとして評価する意見もあるくらいだ(注1)(ただし、ただ顧客の意見を吸い上げるというのではチェスブローのいうオープン・イノベーションにあたらないのは明らかで、オープン・イノベーションの言う顧客参加とは、より開発の深い領域に顧客が直接関わっていく、という意味だろう)。

ただし、技術開発に関わるのはなかなかに難しい。技術開発への顧客の参加が現実に機能しているのはオープンソースソフトウエアくらいかもしれない。他方、デザイン開発への参加の余地は少なくない(注2)。LEGO社などでは実際に顧客参加型のデザイン開発が行われているようだ。

このような顧客参加を支えているのが、創作活動のインセンティブが「金銭」に限られない、というところにある。同時に、企業側には、企業戦略などが漏れてしまうリスク以上の利点があるというところにもある。なお、企業側にとっては、秘密漏洩のリスクを参加ポリシーをガチガチにして提言することも出来るが、そうすると、そもそもの顧客の参加を阻害するため、望ましい結論にならない点には留意が必要だろう。

前者の点は、著作権の世界では意識されてきている(注3)が、どうしても「権利者の権利制限」の文脈の中で捉えられがちで、否定的に見る意見も根強い。著作権以外の世界でも意義が見いだされている、というところは注目したい。

ただ、このような活動、とりわけ、デザイン開発に顧客が深く関与した場合で、その成果が意匠権として出願されることとなる場合、実務上、発明者認定がややこしくなることは注意しなくてはいけない(注4)。

(注1)Jacques R.Bughin et al, The next step in open innovation, 2008 No.4 The McKinsey Quarterly, 2008, p.113-p.122.
(注2)Rita Mcgraph, "Involve Your Customers in Design Decisions", Harvard Bussiness.org (Article published on Feb. 3 2009)
(注3)中山信弘=三山裕三「対談 デジタルネット時代における著作権のあり方(下)」NBL899号(2009年)49頁。
(注4)特許の発明者認定の話であるが参考なる研究書として、工藤敏隆『発明者の認定基準、及び発明者の認定に関する紛争手続き』(財団法人知的財産研究所、2006年)。なお、その要点は、鈴木將文「共同研究の成果の権利化及び活用を巡る法的諸問題」財団法人知的財産研究所『特許の経営・経済分析』(雄松堂、2006年)350頁。
posted by かんぞう at 00:51| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆知財一般 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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