2008年05月31日

[商標]商品形状が使用により自他識別力を有するとして立体商標としての登録が認められた事例(コカコーラ事件)

普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる立体標章につき、長年の使用および大規模な広報により自他識別を有したとの判断がなされ、登録を拒絶した特許庁の審決を取り消す判断が知財高裁によって下された。立体商標についての商標法3条2項の判断が下された例は〔ひよこ立体商標事件〕(知財高判平成18年11月29日)、〔ミニマグライト事件〕(知財高判平成19年6月27日)に引き続くものである。その判断基準はこれまでと変わるところでなく、裁判所の傾向がより鮮明になったと言えるだろう。

知財高判平成20年5月29日(判例集未搭載)平成19年(行ケ)第10215号
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080529172621.pdf

■事件の概要
本件はコカ・コーラのリターナブル瓶およびワンウェイ瓶につき商標登録出願がなされたところ、特許庁は、商標法3条1項3号に該当すると判断し、その上で3条2項該当性を否定し、登録を拒絶する審決を下したことに対し、出願人から審決の取消を求めたものである。

特許庁は、以下のロジックで拒絶査定を下している。
○容器の形状に特徴的形状があるとはいえ、「予測しがたいような特異な形状や特異な印象を与える装飾的形状であるということはできない」。故に「商品,商品の包装又は役務の提供の用に供する物の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標というべきである」。
○本件標章とリターナブル瓶は口部で差異があり、リターナブル瓶としての使用実績は考慮できない。また、文字標章が強い識別力を有しており、立体的形状部分自体が自他識別力を有するとは言えない。出願人は、アンケート調査に基づき立体的形状自体の自他識別力を主張するが、調査方法が不適切(対象が20歳代〜60歳までであり需要者のすべてを対象としていない)であり採用できない。

これに対して、出願人(原告)は、新たにアンケート調査を実施し、自己の主張を補強している。

■判旨の概要
商標法3条1項3号の解釈については、〔ひよこ立体商標事件〕、〔ミニマグライト事件〕と同様の判断を下している。同号の該当性については、
コーラ飲料の容器の形状として,需要者において予測可能な範囲内のものというべき
としてこれを肯定した。
商標法3条2項の解釈については、
立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうかは,当該商標ないし商品等の形状,使用開始時期及び使用期間,使用地域,商品の販売数量,広告宣伝のされた期間・地域及び規模,当該形状に類似した他の商品等の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である
と述べ、その上で、
○長年の使用実績
○多数の販売実績
○多額の広報投資
○アンケート調査結果から明らかとなった消費者における認識
を考慮し(なお、特許庁が否定した当初のアンケート調査結果については、想定される需要者の多くを対象としているといて採用された)、文字商標を除いた独立の自他識別力を肯定した。
また、
○他社からの同様の形状を排除してきた
ことも併せ考え、商標法3条2項に該当するとした。

■解説
3条2項に関する解釈、判断基準が参考になるものと考えられる。
本件の判断は、〔ミニマグライト事件〕の判断と同様である(注1)。参考のため、同時権の判断を挙げると、
1)立体商標自体が自他識別力を獲得しなければならず、
1-a)ともに付された文字商標による識別力は割り引いて判断しなければならない
 →本件は、商品名が小さく目立たなく付されていた。
1-b)立体商標それ自体が自他識別標章として用いられてきた
 →商品名を出さず、ミニマグライト自身の形状で宣伝を行ってきた。
2)似たような形状の商品が無く、需要者において出願人の出所との認識が得られている→本件は類似の形状の商品に対し積極的に不正競争防止法2条1項1号違反であるとして排除を行ってきた。

ただし、本件はミニマグライトと異なり、「形状自体」を広報に用いていた、文字商標が目立たなかったという事情は無いため、アンケート調査により明らかになった立体的形状自体の自他識別力が大きく働いたものと思われる。

このような商品は他に滅多にあるものではなく、普通に用いられる形状が立体商標として登録される可能性が厳しいことを改めて示したものと言える。本ブログには立体商標をキーワードにいらっしゃる方が少なくないので、ここで今更であるが強調したいことは、立体商標は立体的デザインを保護する方法としては意匠権に比べるとハードルが高い方法と言える(注2)ことである。

なお、需要者の「多く」をカバーしているアンケートでその信頼性が肯定されたところは興味深い(注3)。

(注1)同じコートであるから自然なことではある。
(注2)特許庁「〜地域中小企業の取組事例が導く〜ものづくり中小企業のための意匠権活用マニュアル」(2008年)87頁。
(注3)アンケート調査を用いた立証に関しては、優れた論文が出ている。
posted by かんぞう at 13:46| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆商標 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月29日

[著作権]飯村敏明「著作権侵害訴訟における権利制限規定の意義について」報告受講メモ

飯村判事の報告は、裁判所(正確には飯村コート)の思いが伝わる、興味深いものであった。ここに概要をまとめ、若干の考察を行う。ただし、筆者が誤って理解している可能性があることを留意いただき、正確な内容は『著作権研究』(2010年刊)に依っていただきたい。

■報告要旨
本要旨は、報告の主眼と思われる点が強調されるよう、筆者において再構成している。
構成においても筆者の解釈が含まれている点については留意いただきたい。

著作権と一般人の行動の自由との衝突が多発するようになっている。これまでは、立法の強化が進み、また、人々の法意識が著作権を重視するようになってきたことから窺えるように、著作権を保護する方向で作用してきているように思われる。これは裁判所においても同様である。以前は規範的な解釈は許されないとの理解が主流であったが、規範的解釈が採られるようになってくるにつれ、規範的解釈の下、著作権の保護を重視する判決が下されるようになった(注1)。
同時に、裁判所としても行為自由の確保を考慮して判決を下すことも可能となった。
その一例が〔はたらくじどうしゃ事件〕東京地判平成13年7月25日判タ1067号297頁である。46条の趣旨は、学説等によると著作権者の意思や社会的慣行を挙げられていたが、〔はたらくじどうしゃ事件〕では、敢えてこれと若干違う解釈を採り、一般人の行動の自由との調整を挙げた。本判決は45条との関係のみを意識して限定的に解する解釈からはなれ、46条各号の規定を加味して解釈した。
仮に行為自由の確保することを志向するのであれば、権利制限規定の解釈によることが手段の一つである。他の手段としては、著作物性の要件を厳格化する手段、いま1つは侵害の要件を厳格化する手段がある。前者の例は、〔ヨミウリオンライン記事見出し事件知財高裁判決〕であるが、これは今から思えばあまり良い手段ではないかもしれない。後者の例は〔雪月花事件〕であるが、紛争の長期化をもたらす点がデメリットと考えられる。
(注1)その一例が〔クラブキャッツアイ事件〕最判昭和63年3月15日民集42巻3号199頁への流れを飯村判事は挙げていらっしゃった。さらには、それ以後の「カラオケ法理」の展開も挙げられよう。

■私見
野心的な解釈論を試みられている、との評価もある(注2)判事の率直な考えに触れることができたことは貴重な機会であった。
〔ヨミウリオンライン記事見出し事件〕の創作性判断には批判的見解もあるが(注3)、敢えて裁判所が意図していたということがわかったことは面白い。ただ、筆者はそのような傾向が続くかと考えていたが、飯村判事は否定的なご意見であり、今後の権利者の情報の利用者との利益調整は権利制限規定の解釈論に依るところが多くなるのかもしれない。もしそうであるならば、近時学説の深化が目覚ましい引用(32条)などを駆使した判決が登場するのであろう。
たしかに、著作物性の要件の厳格化は、「創作性」という抽象的規範(本研究大会において島並教授の解説された、ルール/スタンダード論におけるスタンダード型規定)にすがることになるため、要件が通常人にとって明確でなく、萎縮的な行動(この場合は、権利者が本来行使できるべき権利を行使しないということになろう)を惹起してしまうし、飯村判事が指摘するように、これまでの著作権一般の解釈論を損なうことにもなる。飯村判事の述べられたところは非常にうなづけるものである。

(注2)FJneo1994さんが指摘されるところである。「■[企業法務][知財] 「補足」の重み」「[企業法務][知財] 商標いろいろ(その6)〜恐怖の知財高裁第3部」『企業法務戦士の雑感』参照(すみません、私もフリーライドしました…>FJneo1994さん)。
(注3)蘆立順美「判批」コピライト521号(2004年)61頁。なお、筆者も批判的な態度である。
posted by かんぞう at 22:53| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆著作権 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月27日

[著作権]小島立「条約における権利制限」報告受講メモ

著作権法学会2008年研究大会で、権利制限と条約、とくにスリーステップテストについて、小島准教授から報告がなされた。権利制限規定がスリーステップテスト違反となった例を紹介されるとともに、国内法解釈にあたってスリーステップテストが参酌されることの理論的課題を指摘されていた。

■報告要旨
著作権の制限規定がスリーステップテスト違反になった事例として、アメリカ著作権法110条(5)がベルヌ条約違反であるとして欧州の著作者団体がWTOに提訴した事例が挙げられる。
WTOのパネルはWT/DS160/Rで、一定の総床面積数以下の施設での非演劇的音楽著作物の権利制限が、ベルヌ条約11条(1)(ii)(上映権)等に違反すると判断された。その理由は、本条が、多数の飲食施設に適用されることを挙げ、これは「明確にて意義付けられ」「適用範囲が狭いこと」が求められると解される「特別な場合」との要件を満たさないと解したことにある(注1)。なお、本パネル報告書へは上訴が無く、WTO紛争解決機関で採択されている。また、米国は欧州に保証金を支払うことで対処しており、立法的対処は行っていない。
同様に、日本においてスリーステップテストとの関係が問題として、著作権法38条3項「通常の家庭用受信装置を用いてする営利を目的としない上演」が条約に適合していないとの指摘がなされている。
そのような場合、権利制限規定の解釈にあたり、スリーステップテストを参酌できるかが問題となるが、国際法の通説的理解では間接的に参酌することが可能であると考えられる。ただし、著作権法には刑事罰規定があるため、権利制限を縮小して解釈する場合(つまり、権利侵害になる方向で解釈する場合)、罪刑法定主義の観点から問題が生じうる。

■私見
スリーステップテストとの関係は非常に悩ましい問題である。世界の動きが紹介されたことは極めて有意義であった。
これまで、著作権の権利制限規定は例外規定であるから厳格に解されねばならないといわれてきた(注2)。しかし、これは教条的に過ぎ、批判もある(注3)。だが、本報告を受けて考えると、スリーステップテストが権利制限の範囲を厳格に(つまり権利者に有利なように)解する根拠となる可能性も感じられるところであった。
だが、小島准教授が指摘されたように、刑事罰との関係は重要である。権利者側はもし自己に有利に法解釈を促したいのであれば、広範な刑事罰規定を見直すことを訴えていくべきだろう。

なお、研究会では、一般条項を設けた場合、スリーステップテストの「特別の場合」要件を満たすか否かが課題となる点が議論となっていた。パネラーはおおよそ、運用上「特別の場合」に限るよう解釈されていればよいとの意見に落ち着いていたが、情報社会指令で厳密に権利制限範囲が確定した欧州諸国の権利者が米国のスリーステップテストに対してなんらかの理論的な攻勢をかけることも考えられる。
もっとも、欧州ではスリーステップテストの明確性に疑問の声が挙っていることが指摘されていたほか、明確性を欠く規定であるため国内法の解釈にあたって参酌することは困難との意見もあった。
いずれも今後考えていく上で参考になる。

(注1)Ricketsonらによるとスリーステップテストの第1要件は「範囲が特定されている」、かつ「公共政策上の明確な理由から正当化される」または「例外的な状況から正当化される」と解される(SAM RICKETSON, THE BERNE CONVENTION FOR THE PROTECTION OF LITERARY AND ARTISTIC WORKS:1886-1986, p.482(Kluwer Law International 1986))。
(注2)最近でも裁判所がそのような趣旨に立って判断したものと思われるものが登場している。〔社会保険庁LAN雑誌記事事件〕東京地判平成20年2月26日(判例集未搭載)平成19年(ワ)第15231号、なお、同事件の概要は本ブログ2008年3月3日記事「[著作権]行政目的の複製に対する複製権の制限(著作権法42条1項)に公衆送信権は含まれると解するべきか?」参照。
(注3)中山信弘『著作権法』(有斐閣、2007年)241頁。
posted by かんぞう at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆著作権 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月26日

[時事]「問題集から著作権が消える」…しかたないけど果たして良いのか?

著作権法学会の話題を載せようと思ったら、面白い記事があったので、そちらをまず取り上げる。

■過去問題集から一部の著作物が消えてしまう
2008年5月25日産新聞によると
大学入試の過去問題集などで、国語の長文読解問題の一部が掲載されない異例の事態が起きている。評論などを執筆した作家から著作権の許諾が取れていないためだ。教育業界では「教育目的」という大義名分のもとで無許諾転載が慣例化していたが、著作権保護意識の高まりから、大手予備校や出版社などが相次いで提訴されており、引用を自粛する傾向も目立ち始めている。

これは、試験での利用(36条)、教育目的での利用(35条)などの権利制限規定が、いずれも、予備校等による複製が対象でないため、起こっている問題である。

これまで教育産業側が著作権処理に熱心でいなかったことが理由の一つであろう。ただ、上記報道によると、著作権者側が利用を拒んだために過去問題の掲載ができなかったという事態も生じているようだ。

これは現状の法律では仕方の無いことであるし、著作権者にとっては勝手に著作物を使われてしまっている(試験での利用時には36条が働くため)のだから、何より感情面でしっくりこない点は
気持ちとしてはよくわかる。

もっとも、同じように感情論を言えば、利用させてあげてほしいといううのが私の思いである。

受験生だった頃を思い出せば、過去問題(それも直近の)がわからないことはかなり不安になることと推測される。できれば著作権者側も配慮していただければな、と思う。事実関係が正確に分かっていないので恐縮だが、一部に対して利用を拒んだのであってほしい。

■著作権者に過去問題集への利用をコントロールさせるべきか
ちょうど著作権法学会でのテーマと重なるところが多く、興味深い事例である。仮にこのような場合に権利制限を行うことを考えてみる。著作権者の経済的利益を著しく損ねることは無いと通常考えられるし、権利が制限されるのは特別な場合に限られている。そうであるならば、権利制限が認められても良さそうである。

ただし、認めるならばそれなりの理由がいる。

なんだろう、と考えてみると、こんなとんでもない「政策的理由」が思いついた。
○少子高齢化で若年層に特別の保護を与えることが望ましい
○学力低下の現状(注1)に鑑みれば、学習の機会を担保することが国益につながる

もちろん、冗談であるが、こんな制度だったらおもしろいのでは??


(注1)私は本当に低下しているのか極めて疑問視しているが、まぁ、多くの人はそう言うし、そういうことにしておく。
posted by かんぞう at 00:31| Comment(0) | TrackBack(0) | ★時事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月25日

[著作権]山本隆司「権利制限の共犯従属性」報告受講メモ

著作権法学会2008年研究大会で山本弁護士がなさった報告は、非常に刺激的なものであった。その概要(ただし、筆者が誤って理解している可能性があることを留意いただきたい)と若干の感想を述べる。

■報告概要
権利制限規定の解釈の枠組みを提示した。スリーステップテストの第2要件「通常の利用」の理解を手がかりにすると、権利制限の根拠は、(a)優越的価値を有する行為である、(b)著作権者に被害を生じさせない利用行為である、(c)市場の失敗を生じる利用行為である(それゆえ著作権者の権利行使を認めても誰もハッピーになれないから権利制限をかけてしまう)、の3つに大別できるのではないか。この枠組みに従うと、契約のオーバーライドの当否も判断できる。

また、この枠組みに従うと。権利制限規定の性質によって、間接侵害者に責任を認めるべき場合が峻別できる。具体的には、(c)の場合である。なぜならば、間接行為者が業として行う場合、個々の取引費用を無視しうることが出来、制限する根拠が失われるからである。

■私見
興味深い試論である。特に間接侵害について、「間接侵害を認める当否」ではなく、間接侵害の問題を生じさせる要因が権利制限規定であることに注目し検討するアプローチは興味深い。

もっとも、権利制限規定のうちどの規定が市場の失敗を理由とする権利制限規定と解することが出来るのかについてはなお議論の余地があろう。

ただし、スリーステップテストから権利制限の性質論への展開がどのように導くことが出来るのか、また、網羅的に性質論を述べているのか、時間の関係で山本弁護士も深くは述べることができなかったし、勉強の足りない私にはわからなかった。これについては、後日発表される『著作権法研究』の論稿に注目したい。
posted by かんぞう at 01:32| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆著作権 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

[つぶやき]著作権法学会2008年度研究大会報告

著作権法学会の研究大会を聞いてきた。

フェアユース規定の導入を念頭において、権利制限の性質論、スリーステップテストとの関係に踏み込んで極めて刺激的な議論が行われていた。(中山信弘弁護士が日本型のフェアユース規定導入を明確に主張されるという点でも刺激的であった)

今後、数日にわたり、私が理解できた範囲で報告内容をまとめ、若干の考察を述べていきたい。
なお、正確な報告内容は来年公表される著作権研究にあたっていただきたい。私がまとめた概要に存在する誤りはすべて私に責任があることを明記しておく。
posted by かんぞう at 01:29| Comment(0) | TrackBack(0) | ●つぶやき | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月23日

[商標]歴史上の著名人の氏名の顧客吸引力の独占の可否(その2)

本ブログ2008年2月18日記事「[時事]歴史上の著名人の氏名の顧客吸引力の独占の可否」で触れた、「吉田松陰」の商標登録について自治体が反発した事案について解説した記事が面白かった。

渡邉知子「歴史上の著名な人物の名前を商標登録できるか」日経デザイン2008/04号(2008年)90頁〜91頁は、歴史上の著名人の氏名は現行制度上早い者勝ちであることを説明した上で、「聖徳太子」「伊達政宗」「坂本竜馬」などの氏名がすでに登録されていることをまとめている(注1)。

しかも、制度上、現存する著名な名所についても自由に商標登録ができることを指摘されている。これも面白い。ジャンク商標オススメしている趣旨とも読み取れかねないが、おそらく、地方自治体に注意喚起をされているのだろう。自治体にとって重要な指摘であろう。

ただし、気になる点が2点あった。

1点目は、上記の事態が生じることが使用主義が貫徹されていない弊害であると読めるかのような記述をなさっていることである(注2)。使用主義を貫徹すると、事業の準備段階で冒用されることもある。名称には意外に投資が必要なことを考えれば、使用主義の貫徹は望ましくないのではないか。また、前掲の記事で指摘したように、先使用権で不都合の解消は図られているように私は思う。

2点目は、故人とは関係の無い第3者が独占権を得ることがないよう、故人の継承者に登録を認める制度設計についての言及である。渡邉弁理士は、仮に譲渡やライセンスが可能であるような制度にすると、「人物の名声に便乗した利益取得が目的とはならないのか、との疑問が残る」と述べられている。しかし、故人の継承者に登録を認める制度としている段階で、名声から得られる財産的利益が誰かに帰属することを認めているように思う(注3)。疑問はあたらないのではないか。もし、遺族の人格的利益を尊重し、人物の名声に便乗した利益取得を否定するのであれば、遺族に固有の故人の氏名の使用の排除権を与え、故人の氏名の使用は不登録事由とすればよい。

なお、故人の継承者に商標登録を認める制度設計は面白い。著作権保護期間延長の議論を参照するならば、「遺族の利益のために」故人が自らのパブリシティを高めようと努力し、結果として各人が「頑張る」可能性が生じ、社会として望ましいと考えられるからである(注4)。

(注1)私が探せなかったものであり、これだけでも十分面白い。
(注2)アメリカの制度を引き合いに出されていた。
(注3)このような制度設計を肯定するためには、端的にはパブリシティ権を認める方法がある。
(注4)皮肉である。
posted by かんぞう at 00:34| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆商標 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月21日

[特許]職務発明対価算定における包括クロスライセンスの考慮

大塚理彦=福田あやこ=島並良「判評(東京地判平成19年1月30日判時1971号3頁)」NBL881号(2008年)13頁以下 読書メモ

■論文の概要
キヤノン職務発明事件〕(東京地判平成19年1月30日判時1971号3頁)の、職務発明対価算定の方法について肯定的立場から整理・分析を行っている。
同判決は、自己実施とライセンス供与が同時に行われている場合について、自己実施による部分の超過利益を否定しなかった。これは一部の判決(大阪地判平成17年9月26日判タ1205号232頁、東京地判平成18年6月8日判時1966号102頁)とは異なる判断であるが、権利者がライセンス供与相手を限っている場合などには超過利益があると考えられることから、妥当な考え方と論者は評価している。
さらに進んで、本判決がライセンスバック契約について実質的に判断し包括ライセンス契約として算定の基礎としたことについては、契約の形式にとらわれない点について賛成しつつも、本件の特殊事情である、使用者が圧倒的な市場シェアを有することに鑑みて、相手方の特許の価値は当事者間でほぼ考慮されていないと考えられることを考慮するべきと指摘している。

■私見
原判決は非常に長く、やもすると分析をしたくなくなるものであるが、その意義を整理した点できわめて参考になる。
posted by かんぞう at 01:20| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月20日

[知財の本]藤野仁三(訳)『アメリカ知的財産権法』(八朔社、2008年)

アーサー・R・ミラーマイケル・H・デービス(著)藤野仁三(訳)『アメリカ知的財産権法』(八朔社、2008年)はおススメ。

■本の概要
米国の知的財産法学者として著目なArthur R. MillerとMichael H. Davisによる教科書Intellectual Property:Patents, Trademarks, and Copyright 4th ed.の邦訳。米国の知的財産制度を網羅的に説明している。

■おススメポイント
米国の知的財産制度を概説した本は種類が乏しい上に、新しいものが無かった。本書はその間隙を縫う、貴重な本である。原文にできる限り沿っているためか、若干読みにくい点もあるが、簡潔に書いた基本書であることを考えると、やむを得ない。300頁のボリュームで、制度が容易に概観できる点は、優れている。
posted by かんぞう at 20:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ★知財の本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月19日

[著作権]音楽著作物の保護のあり方を巡る興味深い現状

津田大介「「音楽不況」なのか」朝日新聞2008年5月17日(東京版)は、昨今の音楽著作物を巡る保護のあり方についての議論の中で認識すべき興味深い数字を示している。

■記事の概要
音楽業界は不況にあると言うが、これは売れ行きが低下しているCDを中心に見ているからである。日本音楽著作権協会の資料料徴収額は2007年、過去最高の1156億円であったし、ライブの入場者は2006年1978万人となり、8年前に比べ500万人以上増加した。
しかし、レコード会社は音楽ファンを顧みておらず、CDに高い価格設定をしたままで、あまつさえ、iPodに「みかじめ」料を求めている。音楽ファンに真摯に向き合うべきである。

■私見
昨今の音楽著作物を巡る保護のあり方を巡る議論の重要な論点のうち2つは、
○違法にアップロードされた録音・録画物のダウンロード違法化
デジタル音楽再生機器への私的録音録画補償金課金
であった。
これらを押し進める理由の一つ(あくまで一つ)として、違法にアップロードされた録音・録画の複製物により被害を受けていること、あるいは、私的録音録画補償金の対象となっていない私的複製が増加し著作権者の利益が害されていることがある。
私の乏しい知識で知る限りでは、音楽不況の現状が被害や利益を害されている蓋然性を示す資料として取り扱われてきたように思う。

今回の津田さんの記事は、その点に対する批判であろう。

私自身は的確な指摘であると感じた。この指摘は、同時に、「不況産業であるが文化的に重要であるので保護すべき」との議論を封じることにもつながる。

レコード会社が変わらなければならない、という指摘は国内に留まっていない。
たとえば、2008年5月12日付のTIME紙(ASIA版)は"Lost in the Shuffle"という記事の中で、米国でのCDの不況を取り上げ、レコード会社がオンライン配信やライブからの収益へ転換を図っている取り組みを紹介している(そして日本同様ライブからの収益があがるようになったことを紹介している)。

ダウンロード違法化もiPod課金もそれぞれ異なる理由付けがあるところであるし、私自身はその理由は覆すことは難しいと感じるが、レコード会社にも努力を求めるべきことは重要であると思う。あわせて、少なくとも私的録音録画補償金については、その配分のあり方についても再考をするべきではないかと考えている。
posted by かんぞう at 23:43| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆著作権 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月16日

[著作権][つぶやき]著作権侵害のおそれがない場合、予防請求は棄却?却下?

いまさらであるが中山信弘『著作権法』(有斐閣、2007年)の著述の細やかさ、論理の正確さには、襟を正させられる。
用語の使い方一つとってもそうである。例えば、却下と棄却。基本的な用語であるが、訴訟法の専門家や、裁判官以外は(注1)、明示的に区別して用いているだろうか?恥ずかしながら私はいい加減に使っていた。
具体的には、著作権侵害の予防措置請求が、侵害のおそれがないために認められない場合について、田村善之『著作権法概説 第2版』(有斐閣、2004年)は訴えの利益がないから却下されると述べていることに対し、中山469頁は実質的な審理が行われていることを理由に棄却が正しいと述べている。
一語に緊張感が満ちていることが表れている一文であるように思う。
posted by かんぞう at 00:28| Comment(3) | TrackBack(0) | ☆著作権 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月15日

[時事]政府系ファンドによるパテントトロールが登場するのではないだろうか?

■OECDは政府系投資ファンド規制に反対の意向
読売新聞2008年5月15日(東京版)記事によると、OECDはこの6月、閣僚理事会声明として、巨額の国有財産をもとに運用を行う政府系投資ファンド(Sovereign Wealth Fund)に対して、各国が保護主義的な規制を行わないよう求めるようだ。

政府系投資ファンドの動きを警戒する声もあるが、OECDとしてはそのような声に反対の見解なのだろう。


■政府系投資ファンドからパテントトロールを生む可能性
私の知る限り(注1)、現在のところ政府系投資ファンドがパテントトロールを生み出したという話は聞かない(注2)。
しかし以下に挙げる3つの要因から、パテントトロールが生まれる可能性があるように思う。

○巨額の資金を有しているため、特定技術分野における必須特許を保有者ごと買収する事が可能(ただし買収が不可能な場合もある)
○レピュテーションコストが外交関係の中で消化されえるものであり、当事者間の関係性によっては遠慮のない特許収集が可能
○政府系研究機関が保有する特許を活用する可能性がある

とくに資金の巨額さはこれまでにない経験になると思われる。


■パテントトロールを防ぐ観点から政府系投資ファンド規制は必要ない
だからといって、政府系投資ファンドの規制をしろ、というつもりはない(注☆)。これまでだってパテントトロールの弊害はあり得たからだ。
パテントトロールの弊害については、特許法・独占禁止法の運用(たとえば差止請求権を否定する運用や、知的財産権行使の過程での反競争的行為を理由とした権利濫用としての処理)、あるいは、科学技術振興策(たとえば代替技術の開発や、代替技術のパテントプール形成支援)で解決できると考えられる。
パテントトロールへの対策についての議論を続けていくことが大事だと私は考える(注3)。


(注1)私の、ドメスティックな、かつ、乏しい知識が前提という意味である。
(注2)政府系の資産が特許ホールドアップを生じさせた事例は存在する。2006年ワシントン大学の保有すれ特許権の管理委託を行う者からの特許権行使が好例である。
(注3)これまでのパテントトロールによる問題が、米国の特許審査の質に起因するところがあると認識されたのか、一時期に比べ議論が下火になった感がある。知的財産戦略会議においてはなお議論の対象のようではあるが…。
posted by かんぞう at 15:22| Comment(2) | TrackBack(0) | ★時事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月07日

[つぶやき]だいぶ空いてしまいました…

結局仕事を言い訳にして何も勉強も、考えることもできていませんでした。
ただ、ようやく仕事も一段落したので…といきたいところでしたが、眼の病気にかかってしまい、1週間程度入院です。世の中にはおもしろい動きがあるのに、悔しいところです。
落ち着いたら、またたくさんの情報発信をしたいな、と思っています。
posted by かんぞう at 00:04| Comment(0) | TrackBack(0) | ●つぶやき | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

[特許]地方は特許流通を生かしているのか?(基礎的な観察)

地域の再生のためには中小企業の振興が重要だ、という意見がある。その具体策は人によりまちまちではあるが、単に一時的な資金を提供するだけでは、かえって産業構造の転換ができず、将来の解決にならないように思う。しかし、中小企業では、研究開発に割くことができる資源が十分でなく、新たな事業展開が難しいという現状もある。

そのような研究開発の課題を少しでも解決する方法の一つが、技術移転や特許流通であろう。適切なマッチングができれば、研究開発が十分できな企業であっても新事業への展開が可能になる。

では、その中の特許流通は現実に地方再生に役立っているのだろうか?地域は適切に特許流通を生かしているのだろうか?この問いを考える基礎的な情報を集めてみた。



■地域間の特許流通の現状―特許流通アドバイザーによる特許流通を参考に―

どのような特許流通が行われているか、通常は公表されていないが、国が整備した特許流通アドバイザーを介した取引については、おおよそのデータが公表されている。これを参考とする。

特許流通アドバイザーによる特許流通のライセンサー(特許提供者)の多くは、TLOである(注1)。これは大学、公的研究機関からの特許の移転が盛んに行われていることを意味する。他方、ライセンシーは大半が中小企業である(注2)。

ライセンシーとライセンサーの所在地をもとに、地域間の主要な取引の様子を図に示した。矢印の先がライセンス先を表し、矢印の太さは取引件数を表している(注3)(具体的には平成9年から平成19年11月までの成約件数が累積100件以上のもののみ記した)。詳細は下表の通りである。
chiteki080507001.jpg

chiteki080507002.jpg

関東、近畿に対しては周辺地域から多数の特許が移転されていることがわかる。とくに近畿は積極的に特許の移転を受けている様子がうかがえる。

■考察
大学、公的研究機関からのライセンス=アウトの場合、地域への貢献という観点から拠点を置く地域への移転が多少優先されるかもしれないが、基本的にライセンス先に地域的な偏りが生じるとは考えにくい。そうであるならば、地方であっても多数の特許の移転を受ける可能性はある。

しかしながら、現実は大都市を抱える地域に特許が移転する形となっている。これはなぜであろうか。2つの可能性がある(この可能性は併存しうる)。

1つは、地方に研究開発型企業が多く、これらが全国規模で特許流通を行っている可能性、2つめは、地方の企業が全国的な特許流通を生かしきれていない可能性である。

上記のデータだけでは即断はできないが、興味深い点ではある。

後者の場合、都市部、特に近畿での特許流通の効果を参考にして(要は効果が乏しいのであれば奨励の必要はない)、地域として流通促進の要否を検討する必要があるように思われる。


(注1)独立行政法人工業所有権情報・研修館ウェブサイト「特許流通促進事業の成果について」
http://www.ryutu.inpit.go.jp/about/seika_top_b.html
(注2)この点で、特許流通アドバイザーの取り組みは地域の再生に積極的に関与していると言えよう。
(注3)前掲注1サイト http://www.ryutu.inpit.go.jp/about/10000seika_cc.html
posted by かんぞう at 00:01| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする