2008年02月18日

[時事]歴史上の著名人の氏名の顧客吸引力の独占の可否

(朝日新聞2008年2月18日)
吉田松陰、高杉晋作、桂小五郎は商標なのか――。山口県萩市出身の維新の志士3人の名前が、東京の会社に食品や酒類など幅広い分野で商標登録されていることが分かり、萩市は18日、「先達を敬愛する郷土の人の感情を害する」などとして、特許庁に取り消しを求める異議申し立てをしたと発表した。

…(中略)…

今回の商標登録により、萩市では3人の名前がついた観光みやげ品などは製造できず、使う場合は同社に使用料を支払うことになるという。

市は「3人の名声に便乗した商標権による利益取得が目的といわざるを得ない。歴史上の著名な人物は独占排他的権利は認めるべきでない」と主張。今後は、歴史上の著名な人物の商標登録制度があいまいであるとして、山口県市長会などに呼びかけ、法律の見直しを求めていく。

という報道があった。

また、他の報道によると、出願人は自己使用しない可能性がある者(いわゆるトロール)であることがうかがえる。
(読売新聞2008年2月18日)
貸金などを業務とする東京の会社が「吉田松陰」「高杉晋作」「桂小五郎」という幕末の志士たちの名を商標登録していたことがわかり、3人の出身地の山口県萩市は18日、特許庁に登録取り消しを求める異議申し立てをしたと発表した。


■歴史上の著名人物の名称に排他的独占権を与えることは慣行になっているのでは?
本件登録は、第4条第1項第8号(他人の氏名又は名称等)が、
他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)
と定めているが、特許庁審査基準は、

1.本号でいう「他人」とは、現存する者とし、また、外国人を含むものとする

としている。

それゆえ仕方ないことである。

しかし、仮に主張のように登録を認めないとどうなるのだろうか?

歴史上の著名人の氏名または氏名の著名な略称を含む名称として次のような例がある。
「信玄餅」(第1015994号)
「信長書店」(第4366594号)

最近ではNHKが出願した、
「篤姫」(第5046968号)
もある

※ちなみに「信長の野望」は登録商標でないようだ(見つからなかった…)。

商慣習からすると難しいのではないか。

現状のところは人格権との調整規定と考えられるし、法解釈上も難しい(注1)。
もちろん、自然と蓄積された顧客吸引力を特定人に排他的に帰属させるのはどうか、という議論は興味深い。
赤毛のアン事件のように公序良俗違反とする理論構成も考えられるかもしれない。

■冷静な対応を!
報道に違和感を覚えたのは、「使う場合は同社に使用料を支払う」という記載がミスリーディングである点である。少なくとも現状販売されている土産品には先使用権がある。
また、本件の場合、結局、不使用で取り消し、ということも十分考えられる。こういうのが地域にとって困る!ということで真剣に対抗するならば、3年の間に通常実施権許諾を受ける者がないよう働きかけ、権利行使には権利濫用の抗弁で抵抗するなど、地域での取組みが必要なのではないだろうか。

ひこにゃんのときにも感じたが、自治体の方が必ずしも正確に知的財産法を理解されていないことがある。本件のこの報道による限りでは、その懸念がある(もっとも、新聞記者が誤解をしている可能性もあるので、なんとも言えない)。出来れば、適切ま弁護士に相談し、地域として冷静に対処していただきたいなと思う。

(注1)反対、平尾正樹『商標法』(学陽書房、2002年)148頁。ただし、「死後直ちに消滅する訳ではない」と述べられており、遺族等の追慕の情の保護を念頭においていらっしゃる可能性もある。その場合、本件のような百年を超える昔の歴史的人物はやはり対象外となるのだろう。
posted by かんぞう at 22:18| Comment(4) | TrackBack(0) | ★時事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月11日

[時事]特許を出願して海外旅行に行こう?

■特許庁が産業財産権手数料の納付の方法としてクレジットカード決済を検討中
産業構造審議会知的財産政策部会 第24回特許制度小委員会の議事録《特許庁へのリンク》によれば、産業財産権の手数料の納付方法としてクレジットカードによる決済を可能とするか否かについて今年度中に検討するようだ。

地方自治体が水道料金などの納付についてクレジット決済を可能にしていることを考えれば、産業財産権の手数料等の納付においても実現は難しくないように思われる。

■でも航空会社等には負担かも?
これに関して気になるのが、各クレジット会社の提供するサービスとの関係である。
たとえば、航空会社系クレジットカードではカード利用によってマイルが貯まる。
もし産業財産権の手数料納付によってマイルが貯まるようになるなら、利用者の利便は大きいが、その分、航空会社には負担も増えないだろうか(注1)。

たとえば、請求項10の国内出願のみの特許出願を審査請求つきで行うと、224,600円であるので、1123マイルたまる計算になる(エコノミークラスならば、東京那覇便の片道分を超えるマイルである)。また、指定商品・役務を3区分とする商標登録出願を行うと、51,000円であるので、255マイルたまる計算になる(注2)。

1回の額が大きいだけに、航空会社の経営を少し圧迫する要素になったり?だとと心配してしまう。
『特許行政年次報告書2007年版』第5章「(1) 歳入歳出累年表 」《特許庁へのリンク》によれば、平成19年度の特許料等収入は1340億円である。この1%でもクレジット払いになると、670万マイルが発生することになる!!!

とまぁ半分冗談で言っているのであるが、マイルが少なからず航空会社の負担になっていると聞くことを考えれば、無視できないことであるようにも思う。

もっとも特許庁は「ダイレクト方式」での納付についてクレジット教会に検討を申し入れているようである。この方式ではマイルなどのサービスが受けられない可能性もあるのかもしれない。

いずれにせよ、特許庁での動向が注目される。

(注1)もちろん、通常は個人が払うのではないから、心配する必要は無いという意見もあるだろう。だが、マイルが貯まるのだから、社員が立替払いをするインセンティブはあり、結果として個人の支払いが増える可能性がある。ただ、立替払いってダメなことだったりするのだろうか?私は経理に関することには全くもって疎いし、仕事場でもお金を扱わないぺーぺーなので恥ずかしながら実感がないのである。もしダメでないならば、産業財産権の出願費用負担部門の責任者や所管役員は大きな役得を得るのかもしれない。
(注2)手数料、マイル数とも粗粗の計算であるので、条件によりいろいろとバリエーションはある。例示はあくまで1例である。
posted by かんぞう at 19:03| Comment(4) | TrackBack(0) | ★時事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年02月10日

[時事]中国商標法10条10号って面白い

模倣品や、ブランドネームの冒用が目立っている中国で、農水産物のブランドの冒用も深刻である。その中で面白い事案があった。

(毎日.jp)
 中国の企業が「青森」の文字を中国で商標登録申請した問題で、異議を申し立てていた青森県は5日、中国商標局から果物など一部農水産物についての異議を認め「申請を却下する裁定をした」との連絡があったと発表した。
…(中略)…

 裁定は昨年12月29日付。現地法は著名な外国地名の登録を禁じており、商標局は「青森は公衆に知られた地名」と判断した。

 「青森」は中国広州市のデザイン会社「シンテン包装設計有限公司」が5分野で登録申請した。03年4〜6月に中国で公示されたのを知った県が03年7月、異議を申し立てていた。今回、異議が認められたのは▽果物・野菜▽水産物・肉の2分野。残る(1)茶や米など(2)野菜ジュース(3)防水服――の3分野は審議中という。

■中国商標法10条10号は日本から見ると興味深い
「公衆に知られた地名」であれば登録を認めない点は面白い。
日本では対応する規定は、4条1項19号(および、ぶどう酒等に関しては、同17号)であろうが、図利加害目的が求められる。(それゆえ、日本では「北京」(登録0775949)などの登録例がある)
他方、中国商標法10条10号では目的を問題としていない。

10条10号
県又はそれ以上のクラスの行政区画の地名及び一般に知られた外国地名は,商標とすることができない。ただし,その地名が別の意味を有する場合…(中略)…はこの限りでない。
(日本語訳は特許庁の翻訳に拠った)

なお、細かいことであるが今回の裁定で気になる点は、一部の分野のみ異議が先に認められた点である。

10号が登録の目的を問わない以上、公衆に知られていると認定されれば、全ての分野で無効になるはずである。一部の分野のみ異議が先に認められる理由がわからないが、あるいは但し書きに言う「別の意味」は分野ごととの関係で判断されるという解釈を中国の当局は取っているのだろうか。

■外国著名地名を無効とすることの難点
ただ、同号のような規定には問題点も感じる。

中国国家工商行政管理総局商標局のデータベースを見てみると、「青森」なる商標は他に6分野についても設定されている。
中には1990年に登録されたものもある(No.570919)。このことを考えると、中国において「青森」なる標章は不自然なものではなく、これについて商標登録をした行為には悪意がなかった可能性も考えられる。(今回の事案も単なる冒用事案ではないのかもしれない。)「公衆に知られた」の運用次第であるが、10号は出願人には酷になる可能性がある。

標章というのは出所識別機能を持たせるために、多少の独自性を持たせることが多いと考えられる。言い換えれば「普通名称」なり「普通の単語」ばかりを使うとは限らない。良いイメージを想起させるような造語もありうる。そうであるならば、同号但し書きの「別の意味」のみを対象外とするだけでは、例外として不十分な気もする。

また、県レベル以上に限定しているとはいえ、少なくとも漢字文化圏の国と交流が増えることで、公衆に知られた地名は増えてしまうのであり、その分、潜在的な商標権者にとっては商標選択の余地が狭められてしまう。

例を考えてみると、日本の「高雄」(京都もみじの名所)にちなんで中国で商標登録をしようとすると、台湾の「高雄県」の存在を理由に拒絶されてしまう、ということがありうるのではないだろうか。その他にも、「江原」「大田」という行政区分が韓国に存在するため、「江原」「大田」を日本から商標登録する際には注意が必要となるだろう(大田区や大田市の事業者には迷惑な話のようにも思う。)。
posted by かんぞう at 00:44| Comment(0) | TrackBack(0) | ★時事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする