2007年04月30日

[時事][知財一般]日米首脳会談の合意事項を読み取る

安倍首相の訪米と、その機に行われた日米首脳会談で「海賊版の規制強化」について合意がされた、との報道があった。これを「知的財産保護の強化」とのみ伝えているメディアもあり、詳細はわからないのだが(注1)、おそらく、海賊版の話が中心だったのだろう(注2)。
(注1)アメリカのメディアのウェブサイトでは、「慰安婦問題についての歴史認識」のみがニュースとなっており、内容がまったく把握できなかった。正直に言って安倍首相の影はアメリカで薄いのだろう…。歴史認識が問題となってしまうところに、中央教育審議会の山崎正和会長が行った「我が国の歴史はこうだったと国家が決めるのは間違い」との発言が正鵠を射ていることを痛感させる。
(注2)仮に著作権延長の話まで合意していたのであれば、『地獄の業火に焼かれて死ぬべきである』(笑)。というのも『著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム』《同フォーラムへのリンク》で議論されているように、現状の日本の国益を考える限り延長のメリットは乏しい可能性がある。むしろ、コンテンツ創造の疎外要素ともなりうる。少なくとも日本国内で、日本の国益を考えた議論を積み重ねるべきだろう。安倍首相には、経済問題についてこのような漠然とした不安を持ってしまう。


さて、件の海賊版対策だが、模倣品一般の取り締まり強化を促進する条約「模倣品・海賊版拡散防止条約(仮称)」の実現を目指しているらしい。この条約、文化庁の平成18年度『著作権分科会報告書』《文化庁へのリンク》が述べるところによると、日本が提言しているものらしい。その内容は、情報提供制度や、問題となっている国の制度・人材整備支援などのようだ。

翻って、今回の首脳会談での合意事項は、新聞報道によると「侵害物品の輸出禁止義務づけ」「不正製造に関する情報開示制度の整備」である。後者は日本が言っていることであるが、前者は異なる。とはいえ、特許法、商標法においては侵害物品の「輸出」行為を侵害行為とする法改正を昨年行ったばかりであるので、違和感のあるものではない。

気になるのは、「著作権侵害物品販売行為の非親告罪化」まで合意していないか、という点である。

平成19年度文化審議会 著作権文科会法制問題の第1回議事録《文化庁へのリンク、PDF》を読むと、今年度の検討テーマとして、「著作権侵害物品販売行為罪の非親告罪化」「著作権侵害物品の広告行為の禁止」が挙げられている。そして、前者については、国際著作権課の千代さんという方が、アメリカからの要請であると述べられている。

確かに実効性の確保という意味では、非親告罪化は良いのかもしれない。しかし、理屈の上ではライセンス関係があるかもしれず、また、頒布権を有する客体かどうかも、外形から判別できないかもしれない。つまり、あくまで理屈の上では、正当な販売行為が刑事罰の手続きに乗ってしまう可能性が生じてしまう。デュープロセスの観点からも問題があるように思う。軽々に合意されるべきものではない。

どのような合意が日米首脳会談でなされたか、その後の情報開示を待ちたい。
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2007年04月28日

[著作権]著作権延長の経済効果の試算結果が今年度中に公表予定

P2P技術を用いたファイル共有ソフトによる、音楽の違法な背信行為によりCDの売り上げ減少を招いたかどうかを、計量分析された研究者がいる。慶応大学経済学部の田中辰夫准教授であるが、田中先生の分析によると、売り上げ現象を招いていない、との帰結が得られたとのことである。この研究は、著作権の分野の人間にはインパクトがあるものであったから、ご存知の方も多いと思う。

その田中先生が、今年、著作権延長の経済効果の試算に取り組まれるらしい。今年中に報告書としてまとめられるようなので、少しばかり楽しみである。

もちろん、計量分析であるので、モデルの立て方など、議論はいろいろあるところであろうが、何かよくわからない「べき」論が展開されるよりずっと良い。期待したい。
posted by かんぞう at 21:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆著作権 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年04月24日

●[その他]産学連携の背景と今後―西村吉雄[2003]読書メモ―

西村吉雄『産学連携――「中央研究所の時代」を超えて』(日経BP社、2003年)読書メモ。

知的財産が深く関わってくる分野の一つに、産学連携がある。その産学連携の行方を追いかけるために、いったいどういう背景事情が作用したのか、ということも知っておきたかった。そこで、読んでみたのがこの本。エレクトロニクス研究からビジネス誌の編集者に転じた著者が、アメリカの事情にも分析を加えて、歴史的な推移をわかりやすくまとめている。

○この本の概要:産学連携へのニーズを生み出した、リニアモデルから技術と科学の相互作用モデルへの転換
まず西村は、利潤の源泉は、研究開発行為により、現在の価値を未来の価値体系につなげることだと述べる。言い換えれば、なんらかの知識を、ニーズに答える形で実用化すること、であるとする。この前提が正しいならば、研究開発には、知識を生み出すだけでなく、ニーズとの接点が必要となってくる。
しかし、20世紀においては「技術」の上流に「科学」が存在し、「科学」が成長すれば、自動的に「技術」が好転すると捉えられていた。その実現例がナイロンである。企業の研究室という、「科学」の世界から生まれたのがナイロンだった。企業はこれに倣って、「中央研究所」をこぞって作った。現場のニーズから遠い「中央研究所」が研究開発の中心となる時代が長く続くこととなった。
ところが、事態は半導体の時代となって変化する。あまりに高度化したため、専門的分業が望まれる。分業を進めるには、インターフェースさえ共通化すれば良い。「分業」が「中央研究所」の必要性を揺るがす契機となった。
この傾向は、コンピュータの世界で顕著に進み、「中央研究所」を持たないインテル社の成功が、大きなインパクトを持つこととなる。初のマイクロプロセッサ404は、大学の知識と技術の現場と深く接点を持っていたための産物だった。西村は、これを科学と技術が対等になったと評価している。(そして、一時期日本が「アメリカの基礎研究のただ乗り」をしていると批判していることが当たらないと反論している)
インテルの成功は産学連携のベストプラクティスモデルとなった。大学は異なる知が出会う場面であり、ニーズとの接点さえあれば、新たな研究開発の可能性を秘めていることを、西村は指摘するのである。

○この本を読んで:大学のあり方をどうするか?
歴史的経緯から、よい産学連携のあり方の一つを推測するなら、企業の技術者が大学と深く関わっている、あるいは、交流の場面がある、というものがあげられるだろう。他方、無理無理に大学の知識を、大学がビジネス化する、というのは、歴史的にみれば異質、ということになる。
後者の方向性も産学連携と捉えられているようだが、意味合いとしては大学の外部資金の方策の一つであり、区別して考える必要もあるのではないかと思う。
posted by かんぞう at 23:49| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年04月23日

[時事][知財一般]中国の知財事情に対するWTOへの提訴と留意点

2007年4月10日、アメリカ政府が知的財産権侵害を理由に中国政府を相手取り、WTOに提訴した。EUもこれに同調する可能性があるとの報道もなされた。

すでに報道でも触れられていることだが、中国の国内法として知的財産法の整備が遅れている訳ではない。問題は、エンフォースにある。

一度、中国の知識産権局を訪問したことがあるが、少なくとも中央官僚たちの知財に対する意識は高い。推測にすぎないが、問題の核心は自治体レベルでのエンフォースができていないところにあるのではないか。言い換えれば、中央のコントロールが、知財に関しては末端まで及んでいない、と思えてならない。

もしこの推測が正しいなら、単に知財の問題にとどまらず、中国の政治的課題の現れといえよう。

さて、話は変わるが、この紛争に関連して、読売新聞社説は「水際規制の強化を中国政府等に働きかけるべき」と主張していた。うなずける意見ではあるのだが、留意すべき点もある。

特に特許侵害の場合に顕著なのだが、水際の担当官は通常知的財産権に明るくない。運用いかんでは、保護主義的に働くこともある。いかに、専門的で、中立公正な水際制度を作るよう働きかけるか、が大事なように思う。
posted by かんぞう at 22:49| Comment(0) | TrackBack(0) | ★時事 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

[つぶやき]ひさしぶりの発信

4月にサラリーマンとなった。これに伴って引っ越したため、しばらくネットが使えず、情報を集められず、このブログでの発信もできなくなっていた。

そんな状況が3週間続いてフラストレーションがたまっていたが、ようやく復活。ネットの便利さは欲しい専門的な情報がそれなりに、時間をかけず手に入る点であることを痛感した3週間だった。
posted by かんぞう at 22:29| Comment(0) | TrackBack(0) | ●つぶやき | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年04月01日

[不正競争][著作権]Copyrights表示は品質等誤認表示か

大阪地判平成19年1月30日(平成17(ワ)第12138号)は、著作権が切れたいわゆるパブリックドメインにつき、(C)opyrightsという表示をつけることが不正競争防止法2条1項13号にいう、品質等誤認表示にあたるのではないか、といことが争われた事案である。

この裁判例は「不正競争防止法2条1項13号にいう品質」「確認の利益」について学生の勉強に良い材料となるように思う。

裁判所は、著作権法上の保護が存在すること、は13号に言う品質ではないとして、原告の請求を退けているが、他方、著作権法に基づく差止請求の不存在確認は認め、原告の商品を卸売りが買うのを避ける、という自体を防ぐ結論を導いている。

前者の点については、被告の主張が的を射ているように思うので、判決文を参照していただきたい。

この事件の面白さは、問題となった(C)opyrightsという表示が、会社名を表したロゴであったという点にもある。(※ちなみにCopyrights社のロゴは次のURLを参照。URL:http://www.copyrights.co.jp/home.aspx

直感的には原告が訴えたくなるのもうべなるかな、といった感じである。

※なお、この事件を知るきっかけとなったのは、FJneo1994さんの『企業法務戦士の雑感』2007年2月15日付の記事であった。いつも良質の情報をまとめられているFJneo1994さんには学ぶところばかりである。そして、恐れ多いのでトラックバックはできない(笑)
posted by かんぞう at 13:29| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆不正競争 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする