2007年02月20日

[意匠]意匠の類似についての創作説と平成18年改正

●牧野利秋「意匠法の諸問題」ジュリスト1326号(2007年)84頁以下読書メモ

この論文は、平成18年の意匠法改正の紹介と、今後の課題の検討を行ってる。特に、新設の意匠法24条2項(「類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする」との規定)について、創作説の立場に立ち、同規定は実務に影響を与えるものでないとの解釈を示されている点は、注目に値する。

1.この論文の概要
(1)残された課題
今回の意匠法改正によりほとんどの課題は解決されたと評価できるが、1点課題は残る。それはGUIの保護に関するものである。
たしかに、本改正により、画面デザインとしては、機能発揮のためのものまで部分意匠として認められるようになり、保護は拡大している。しかも、物品に接続する外部汎用表示機器に表示される画面デザインも保護されることとなっているため、物品に関するGUIの保護は十分に行われたと評価も出来よう。
しかし、物品性の無いGUIについては未だ保護が乏しい。GUIについては、欧州、米国、韓国が物品性の枠を取り払っている(87頁)。物品性は利用者の予測可能性に資するものだが、それが知的財産保護にかなったものであるかは検討が必要である。こと、知財推進計画2006で述べられたタイプフェイスの保護を意匠権で行う場合、物品性は再考されなければならない(88頁)。場合によっては、物品性を欠くGUIについては無審査登録制度を検討するのも良いのではないか(89頁)。

(2)24条2項の意義
最高裁判例(〔十三ゴム事件〕最判昭和49年3月19日民集28巻2号308頁、最判昭和50年2月28日判タ320号160頁)において判断基準は「需要者」と示されたが、その公式の判例解説(佐藤繁〔判解〕最判解民事篇昭和49年度318頁)において、これらの判示が混同説に立つものでないことを示唆している(90頁)。
意匠法は創作を保護していること(それゆえ登録要件として創作性を求めている)から、創作説を正当とすべきである。
実際、裁判例においても混同を理由に侵害を認めた事案では、意匠的形態の共通性を観察していることから、実質的には創作を基準にしているようにも読める(92頁)。
これらの実務傾向を崩さずに本改正を理解するならば、同項に言う「需要者」とは先行意匠に知識を持つ「取引者」が意識されていると解することになる(92頁)。この解釈は欧州共同体意匠規則10条に言う"informed user"と同じように考えるものである。

2.考察
意匠の類似についての判断基準には争いのあるところであり、「創作説」(当業者が判断基準となる)と「混同説」(一般需要者が判断基準となる)に分かれている。
創作性説は、(1)意匠法が登録要件として求める創作性との整合性、(2)意匠法が創作活動の保護法として位置づけられることから、競争秩序維持法で用いられる「混同」概念を持ち出すことの不整合、を主たる問題にしているように理解できる(牛木理一「意匠の類似について――意匠権侵害論序説――(1)(2)」パテント44巻(1991年)9号37頁〜・10号30頁〜、中山信弘「〔十川ゴム事件最高裁判決〕判批」法学協会雑誌92巻10号154頁、などを参照)。
もっとも、(1)は法制度のとしての好ましさと言えばそれまでであるので、混同説を否定する決定的な理由で無いように思われる。(2)は創作保護法であることを強調するならば、著作権法で保護すればよいのではないかという疑問がわく(しかも、著作権法では意匠権の保護対象は「応用美術」として明示に保護を避けている)。むしろ、意匠法は創作奨励と競争秩序維持のバランスを図ったものと理解することが出来るのではないか。そうならば(2)もまた決定的な理由とならない。
そうならば、本改正は政策的に、意匠法の性格を決定付けたものとも理解できる。(この点について、意匠法の歴史を無視するものとして牛木先生が「改正意匠法24条2項への疑問――DVD著作権裁判の教訓――」批判をされているが、前述のように必ずしも意匠法の性格と相反するものでないように思われる。)
だが、牧野先生が指摘されるように、実務上の混乱を招く可能性や、本改正によっても明示されたわけでない「混同」概念を用いることの根拠の乏しさ、さらには、登録要件との不整合は望ましいものではない。
牧野先生の「需要者」の解釈は、この不都合を、かなりの程度解消するのではないだろうか。本改正においても「創作説」が維持できることを示したものとして、この論文は意義があると考える。

(ちょっとコメント)
このブログをまとめ出して1年半になるが、初の意匠法に関するメモとなった。意匠法はまだまだつっこみ甲斐がありそうでワクワクする。と、同時にわからないところだらけ。このメモや考えも間違っているところもあるはず。
ちなみに、牧野先生は所属していたクラブの大先輩…。わからないとこだらけ、なんて言ったら勉強が足りない!と怒られそうだ。
posted by かんぞう at 01:49| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆意匠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年02月11日

[特許]台湾特許事情その2:特許権侵害≠刑事罰

表面的な比較法を行ったとき、最も目立つのが、台湾の特許法に「刑事罰」が無い点である。
台湾特許法《Intellectual Property Office of Republic of Chinaへのリンク》を見ていただくと一目瞭然だと思うのだが、Penalty条項が無い。台湾の特許事務所TIPLOのニューズレターによると、特許権侵害については2001年に刑事罰規定が削除されたようだ。

重罰化の日本とは真逆なのである。
今回インタビューしたところによると、刑事罰を無くした理由は、
・侵害の判定が困難な場合が多く、刑事罰を与えるにはためらわれる

・従来、民事責任追及をするより刑事責任追及に丸投げする権利者が多く、行政資源の浪費に繋がっていた
ところにあるらしい。

後者は、同じ起訴便宜主義を採っているのに、日本では考えられないことである。まず特許権侵害では起訴されないし、捜査もされないからである。運用の違いとは面白い。
posted by かんぞう at 23:53| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年02月07日

[特許]台湾特許法事情その1:対応課題の日本との違い

先日、台湾に遊びに行く機会があった。ついでながら台湾の特許制度について話を聞く機会があったので、何回かに分けてまとめることとする。

日本では、特許庁での審査の迅速化が、対応すべき課題の第一に挙げられているが、台湾ではそのようなニーズは乏しい、ということが窺えた。その理由の一つは、審査が現実に迅速であるところにあるようである。2006年度では、ファーストアクションまでの期間が17ヶ月だったようであり、日本に比べると9ヶ月程度(独立行政法人工業所有権情報・研修館調べによる)早い。

課題となっているのは、裁判での審理の質とのことであり、日本でいう知財高裁の設立や、仮処分における判断ガイドライン作成に努めているとのことであった。
posted by かんぞう at 23:54| Comment(0) | TrackBack(0) | ☆特許 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする